その日は、神谷の交番勤務最終日だった。
出勤してくると、交番の空気はどこか落ち着かない。
署員たちの視線がちらちらと神谷に向けられている。
普段は淡々とした朝礼も、
この日ばかりは――ちょっとだけ、ざわついていた。
「おう、お前ら! 今日で神谷の“交番生活”はラストだぞ!」
長谷川康太が、いつになく声を張り上げる。
神谷が何か言う前に、彼は一歩前に出た。
「なあ、みんな。ぶっちゃけ言っていいか?」
「また始まったぞ……」と誰かが小声でつぶやくが、止める者はいない。
長谷川は神谷の方を向き、ぐっと人差し指を突きつけた。
「背は高いし、顔は整ってるし、無愛想なくせにやることは的確。
しかもだ! かわいい彼女までできて、警察の上層部にまで評価されて……なにそれ、ずるすぎんだろ!」
神谷が眉をひそめかけると、長谷川は続けた。
「俺なんか、だぞ?
異動どころか、お前の異動で勤務増えるんだぞ!?
“お前の後釜はお前の同期でいいか”とか、どんな雑な扱いだよ、ほんと!」
署内に小さな笑いが広がる。
「でもな――」
急に声色が落ち着き、長谷川は少しだけ神谷に近づいた。
「……お前が捜査一課に行くって聞いたとき、正直、悔しかった。
でも、それと同じくらい、誇らしかった。
現場でやってきたこと、ちゃんと見てる人がいるんだなって思ったから」
神谷は言葉を返さなかったが、
目を伏せたまま、わずかに頷いた。
長谷川は大きく息を吸い、満面の笑みで言い放つ。
「だから――頑張れよ、捜査一課!
“あの神谷”が来たって、向こうでも話題になるようにしてやれ!」
交番内に拍手が広がる。
神谷は照れくさそうに頭をかきながら、
それでもしっかりと前を向いていた。
「……ありがとう。お前がそう言ってくれるなら、頑張れる気がするよ」
「……は? 今の録音してない!? 誰か、今の名言撮った!?」
「撮ってないってば」
交番に笑いが戻り、
その空気の中、神谷は最後の勤務を静かに終えた。
出勤してくると、交番の空気はどこか落ち着かない。
署員たちの視線がちらちらと神谷に向けられている。
普段は淡々とした朝礼も、
この日ばかりは――ちょっとだけ、ざわついていた。
「おう、お前ら! 今日で神谷の“交番生活”はラストだぞ!」
長谷川康太が、いつになく声を張り上げる。
神谷が何か言う前に、彼は一歩前に出た。
「なあ、みんな。ぶっちゃけ言っていいか?」
「また始まったぞ……」と誰かが小声でつぶやくが、止める者はいない。
長谷川は神谷の方を向き、ぐっと人差し指を突きつけた。
「背は高いし、顔は整ってるし、無愛想なくせにやることは的確。
しかもだ! かわいい彼女までできて、警察の上層部にまで評価されて……なにそれ、ずるすぎんだろ!」
神谷が眉をひそめかけると、長谷川は続けた。
「俺なんか、だぞ?
異動どころか、お前の異動で勤務増えるんだぞ!?
“お前の後釜はお前の同期でいいか”とか、どんな雑な扱いだよ、ほんと!」
署内に小さな笑いが広がる。
「でもな――」
急に声色が落ち着き、長谷川は少しだけ神谷に近づいた。
「……お前が捜査一課に行くって聞いたとき、正直、悔しかった。
でも、それと同じくらい、誇らしかった。
現場でやってきたこと、ちゃんと見てる人がいるんだなって思ったから」
神谷は言葉を返さなかったが、
目を伏せたまま、わずかに頷いた。
長谷川は大きく息を吸い、満面の笑みで言い放つ。
「だから――頑張れよ、捜査一課!
“あの神谷”が来たって、向こうでも話題になるようにしてやれ!」
交番内に拍手が広がる。
神谷は照れくさそうに頭をかきながら、
それでもしっかりと前を向いていた。
「……ありがとう。お前がそう言ってくれるなら、頑張れる気がするよ」
「……は? 今の録音してない!? 誰か、今の名言撮った!?」
「撮ってないってば」
交番に笑いが戻り、
その空気の中、神谷は最後の勤務を静かに終えた。



