部屋に入ると、ほんのりと紅茶の香りが広がった。
美香奈が手早く用意したティーバッグと、お湯を注いだだけの簡単な一杯。
けれど、ふたりの前に置かれたマグカップは、どこか温かい時間を生んでいた。
「……甘いもの、ないんですけど」
「十分ですよ。疲れているときほど、温かい飲み物が染みますから」
神谷はマグカップを手に取り、目を閉じて小さく息をついた。
その姿はどこか、制服のときよりも柔らかく見える。
美香奈はその横顔を見ながら、ぽつりと呟いた。
「こんなふうに、家の中で人とお茶を飲むなんて……すごく久しぶりです」
「そうですか?」
「ええ。怖くて、人と距離を取っていた時期もあって……
でも、いまこうして落ち着ける空間があるのが、すごく不思議で」
神谷は言葉を返さず、マグカップをテーブルに戻した。
それから、少しだけ体の向きを変えて、美香奈の方を向く。
「……ここにいて、いいんですね」
「……はい。いてほしい、です」
その言葉が、思ったよりもすぐに口をついて出た自分に驚いた。
けれど神谷は、なにも言わずに、ゆっくりと片手を差し出した。
迷いながらも、その手に自分の指を重ねる。
ただ、そっと、触れるだけ。
手の温度が伝わってくると、不思議と胸の奥が静かに落ち着いていく。
「この時間が、続けばいいと思ってしまうのは、欲張りでしょうか」
小さな声で、美香奈はそう呟いた。
「いいえ。……僕も、同じことを思ってました」
交わされる言葉は少ない。
けれど、そこには言葉以上の想いが、確かに流れていた。
美香奈が手早く用意したティーバッグと、お湯を注いだだけの簡単な一杯。
けれど、ふたりの前に置かれたマグカップは、どこか温かい時間を生んでいた。
「……甘いもの、ないんですけど」
「十分ですよ。疲れているときほど、温かい飲み物が染みますから」
神谷はマグカップを手に取り、目を閉じて小さく息をついた。
その姿はどこか、制服のときよりも柔らかく見える。
美香奈はその横顔を見ながら、ぽつりと呟いた。
「こんなふうに、家の中で人とお茶を飲むなんて……すごく久しぶりです」
「そうですか?」
「ええ。怖くて、人と距離を取っていた時期もあって……
でも、いまこうして落ち着ける空間があるのが、すごく不思議で」
神谷は言葉を返さず、マグカップをテーブルに戻した。
それから、少しだけ体の向きを変えて、美香奈の方を向く。
「……ここにいて、いいんですね」
「……はい。いてほしい、です」
その言葉が、思ったよりもすぐに口をついて出た自分に驚いた。
けれど神谷は、なにも言わずに、ゆっくりと片手を差し出した。
迷いながらも、その手に自分の指を重ねる。
ただ、そっと、触れるだけ。
手の温度が伝わってくると、不思議と胸の奥が静かに落ち着いていく。
「この時間が、続けばいいと思ってしまうのは、欲張りでしょうか」
小さな声で、美香奈はそう呟いた。
「いいえ。……僕も、同じことを思ってました」
交わされる言葉は少ない。
けれど、そこには言葉以上の想いが、確かに流れていた。



