「今日は、車で送りますよ。どうせ方向も同じですから」
署を出た夕暮れ、美香奈が改めて断ろうとする前に、神谷はすでに鍵を握っていた。
勤務中とはいえ、すでに終業間際。
神谷はこの日の最後の対応を見届けたあと、
その足で署の駐車場へと向かった。
助手席に乗り込んだ美香奈は、まだ少し緊張していた。
けれど、車内の空気は意外なほど穏やかで、
流れてくるFMラジオの音楽が、ふたりの間の沈黙を自然に包んでくれる。
「お疲れじゃないですか? 今日、ずっと気を張っていたように見えたので……」
運転席の神谷が、信号待ちの合間にそう尋ねた。
「……少し、疲れました。でも、
ちゃんと向き合えたと思います。自分自身とも」
美香奈はそう言いながら、
ふと鞄の中にしまったハンカチに触れた。
「これ……本当に、落ち着くんです。
お守りみたいに思ってます」
「それなら、よかった」
神谷の声は、普段よりも少しだけやわらかかった。
マンション前に着いたとき、美香奈は一度だけ後ろを振り返った。
「……今日は、ありがとうございました。
せっかくなので、お茶でもどうですか? 10分だけ」
誘った自分に、自分で驚いた。
だが神谷は一切表情を崩さず、ただ静かに頷いた。
「じゃあ、10分だけ。きっちり計りますね」
「……そんなにきっちり?」
「警察ですから」
くすっと笑い合いながら、玄関のドアをくぐる。
日常が少しずつ戻ってきている――
そんな実感が、今はなによりもうれしかった。
署を出た夕暮れ、美香奈が改めて断ろうとする前に、神谷はすでに鍵を握っていた。
勤務中とはいえ、すでに終業間際。
神谷はこの日の最後の対応を見届けたあと、
その足で署の駐車場へと向かった。
助手席に乗り込んだ美香奈は、まだ少し緊張していた。
けれど、車内の空気は意外なほど穏やかで、
流れてくるFMラジオの音楽が、ふたりの間の沈黙を自然に包んでくれる。
「お疲れじゃないですか? 今日、ずっと気を張っていたように見えたので……」
運転席の神谷が、信号待ちの合間にそう尋ねた。
「……少し、疲れました。でも、
ちゃんと向き合えたと思います。自分自身とも」
美香奈はそう言いながら、
ふと鞄の中にしまったハンカチに触れた。
「これ……本当に、落ち着くんです。
お守りみたいに思ってます」
「それなら、よかった」
神谷の声は、普段よりも少しだけやわらかかった。
マンション前に着いたとき、美香奈は一度だけ後ろを振り返った。
「……今日は、ありがとうございました。
せっかくなので、お茶でもどうですか? 10分だけ」
誘った自分に、自分で驚いた。
だが神谷は一切表情を崩さず、ただ静かに頷いた。
「じゃあ、10分だけ。きっちり計りますね」
「……そんなにきっちり?」
「警察ですから」
くすっと笑い合いながら、玄関のドアをくぐる。
日常が少しずつ戻ってきている――
そんな実感が、今はなによりもうれしかった。



