イケメン警察官、感情ゼロかと思ったら甘々でした

部屋に入った瞬間は、正直に言えば怖かった。

玄関の扉を閉めると、世界から切り離されたような静けさが戻ってくる。
音のない空間。誰の気配もない、けれど確かにここは自分の“家”。

美香奈はリビングの中央に立ち尽くし、深く息を吐いた。

「……はあ……」

カーテンを開ける。
窓の外、見慣れた街の景色が太陽に照らされていた。

けれど、ほんの少し風が吹いただけで、心がざわついた。
何かが見ているのではないか――
そんな妄想のような不安が、まだ胸の奥に棲みついていた。

ふと、スマートフォンが震える。

ディスプレイには、「神谷涼介」の名前。

少しだけ迷いながらも、美香奈は画面をタップした。

「……もしもし」

『橋口さん、こんにちは。神谷です。
いま、勤務中に管理会社の担当者から連絡がありまして。
お住まいの設備確認について、伝達事項があります。
今から少しだけお伺いしてもよろしいでしょうか?』

「……はい。お願いします」

数十分後――

インターホンの音に心臓が跳ねる。

だが、画面に映った神谷の顔を見て、思わず息を吐いた。

「……どうぞ」

玄関の扉を開けると、制服姿の神谷が立っていた。
どこか気を張っているようにも見えるが、表情は穏やかだった。

「失礼します。
管理会社から、エントランスのオートロック点検と、
共用部の防犯カメラについての連絡があって。
特に問題はありませんが、念のためこちらにも報告しておこうと思いまして」

「……ありがとうございます。
ちょうど、不安で……誰かと少しでも話せたらと思ってました」

美香奈のその言葉に、神谷はふっと表情をゆるめた。

「それなら……少しだけ、お話ししましょうか?」

「はい。お願いします。」

リビングに入り、湯をわかして二人分のカップを置いた。
湯気の向こうで交わす短い会話。
それはまるで、日常の続きが戻ってきたかのようだった。

けれど、神谷の目には、まだどこかに緊張の影が残っていた。

美香奈はその気配に気づきながらも――
今日だけは、ただ“この空気”を守りたかった。