数日後の午前。
病院の退院手続きは静かに進んだ。
まだ完全な体力は戻っていないが、
医師からは「日常生活への復帰は可能」との判断が下された。
病室のドアが閉まり、私服に着替えた美香奈は、
小さなバッグだけを肩にかけてゆっくりと廊下を歩いた。
出口までの数メートルが、
まるでまったく別の世界へ踏み出すように、遠く感じられた。
「お疲れさまです。外に車をつけてあります。
あとは、ご自宅までお送りします」
神谷の声が背後からかかる。
ふと振り返ると、落ち着いた色のジャケット姿で立っていた。
「……ありがとうございます」
美香奈は、そう返して歩みを止めた。
病院の玄関を出ると、
明るい春の光が一面に広がっていた。
車に乗り込み、静かに動き出したタイヤの音。
外の景色が流れ出す中で、美香奈は車窓の先に視線を向けていた。
数分後、マンションの前に車が停まった。
「必要なら、中まで付き添います。
部屋の鍵は……ご自身でお持ちですか?」
「はい。大丈夫です。……でも、できれば……」
そこまで言って、美香奈は視線を伏せた。
「最初の数分だけ、いてもらえますか?
一人で玄関を開けるのが、少しだけ怖くて……」
神谷は深く頷いた。
「もちろんです。お供します」
マンションのエントランスを抜け、エレベーターに乗る。
ボタンを押す指先がわずかに震えているのを、神谷は見逃さなかった。
部屋の前に立ち、鍵を差し込む。
「カチリ」と音を立てて解錠されたその瞬間――
美香奈の体が、ごくわずかに強張った。
扉を開けると、薄暗い空気と、微かに残る違和感。
「……ご自宅の清掃はすでに済んでいます。
必要なら、警備サービスの案内も可能です」
神谷の声に、美香奈は頷いた。
「少しずつ、慣れていきます」
そう答えてリビングへ一歩踏み込んだとき、
部屋の窓から、春の光が差し込んだ。
それは、新しい始まりの光のようにも思えた。
病院の退院手続きは静かに進んだ。
まだ完全な体力は戻っていないが、
医師からは「日常生活への復帰は可能」との判断が下された。
病室のドアが閉まり、私服に着替えた美香奈は、
小さなバッグだけを肩にかけてゆっくりと廊下を歩いた。
出口までの数メートルが、
まるでまったく別の世界へ踏み出すように、遠く感じられた。
「お疲れさまです。外に車をつけてあります。
あとは、ご自宅までお送りします」
神谷の声が背後からかかる。
ふと振り返ると、落ち着いた色のジャケット姿で立っていた。
「……ありがとうございます」
美香奈は、そう返して歩みを止めた。
病院の玄関を出ると、
明るい春の光が一面に広がっていた。
車に乗り込み、静かに動き出したタイヤの音。
外の景色が流れ出す中で、美香奈は車窓の先に視線を向けていた。
数分後、マンションの前に車が停まった。
「必要なら、中まで付き添います。
部屋の鍵は……ご自身でお持ちですか?」
「はい。大丈夫です。……でも、できれば……」
そこまで言って、美香奈は視線を伏せた。
「最初の数分だけ、いてもらえますか?
一人で玄関を開けるのが、少しだけ怖くて……」
神谷は深く頷いた。
「もちろんです。お供します」
マンションのエントランスを抜け、エレベーターに乗る。
ボタンを押す指先がわずかに震えているのを、神谷は見逃さなかった。
部屋の前に立ち、鍵を差し込む。
「カチリ」と音を立てて解錠されたその瞬間――
美香奈の体が、ごくわずかに強張った。
扉を開けると、薄暗い空気と、微かに残る違和感。
「……ご自宅の清掃はすでに済んでいます。
必要なら、警備サービスの案内も可能です」
神谷の声に、美香奈は頷いた。
「少しずつ、慣れていきます」
そう答えてリビングへ一歩踏み込んだとき、
部屋の窓から、春の光が差し込んだ。
それは、新しい始まりの光のようにも思えた。



