イケメン警察官、感情ゼロかと思ったら甘々でした

神谷が去ったあと、部屋には再び静けさが戻った。

リビングの時計の針が、規則正しく音を刻んでいる。
窓の外からは、鳥のさえずりと遠くを走る車の音が聞こえた。

美香奈は、カップに注いだ二杯目の紅茶を手に持ったまま、ソファに座っていた。

(……ひとり)

さっきまではあれほど怖かったのに――
今は、その感覚がほんの少し和らいでいるのを自覚する。

神谷の存在。
彼がそばにいた夜。
そして、朝の穏やかな時間。

すべてが、“もう一度、日常に戻れるかもしれない”と教えてくれた。

だけど、ただ守られるだけじゃいけない。
そう、思った。

「……私に、できることって……なんだろう」

ぽつりと、独り言のようにこぼれた言葉。

あの夜の恐怖。
身体が動かず、声も出せず、ただ逃げることしかできなかった自分。

でももし、自分の経験が――
誰かの役に立つことがあるのなら。

(……同じように怖い思いをした人がいたら、
 今度は私が、そばに立てるようになりたい)

法律を学び、資格を取り、いま弁護士のもとで働いている。

そのスキルを、“守る”ために使うことはできるのか。

紅茶の湯気の向こうに、
小さく、でも確かに芽生え始めた未来の輪郭。

それは、まだおぼろげで、確かなかたちは見えていなかった。
けれど、心の奥に灯るような想いは、しっかりと彼女の中に根を張っていた。