時計の針が、秒を刻む音だけが響いていた。
部屋はあたたかく、整っていて、安全なはずだった。
けれど、美香奈の呼吸は、徐々に浅くなっていく。
窓の外で鳴った、ごく小さな音。
冷蔵庫の唸るようなモーター音。
誰もいない空間に漂う、“異物”のような静寂。
「……っ、あ……あ……」
喉の奥で言葉にならない吐息がこぼれ、
胸の奥がぎゅうっと締めつけられていく。
“また来るかもしれない”
“ひとりでこのまま、またあの時のように――”
過呼吸。
腕が震え、指先がかじかみ、意識が遠くなる。
スマートフォンに手を伸ばし、
名前の文字を見つけた瞬間、涙がぶわっとこぼれた。
「……かみや、さん……」
迷う暇もなく、震える指で発信。
数コールのあと、受話器の向こうから、落ち着いた声が聞こえた。
『……橋口さん?』
その一言だけで、嗚咽がこみ上げた。
「ごめ、なさい……っ、こわ、くて……もう……どうしようも、なくて……」
『大丈夫です、すぐ行きます。待っててください』
通話が切れたあとも、しばらく美香奈は泣き続けていた。
***
それから十五分後――
ドアチャイムが鳴った。
駆け寄って確認したモニターには、
私服姿の神谷が立っていた。
髪が少し乱れ、明らかに家から飛び出してきたままだ。
「お待たせしました」
ドアを開けると、彼はいつもと変わらぬ口調で、
けれどほんの少し、息を切らしていた。
「来てくれて……ありがとう……」
涙で赤くなった目を見て、神谷は何も言わず、
玄関に用意されていたスリッパを履いて、そっと中に入った。
「落ち着くまで、ここにいます。……安心してください」
彼女が再び泣き崩れると、神谷は黙って肩を支えた。
毛布をかけ、照明を少し落とし、
呼吸が整うまで、ただ隣に座り続けた。
美香奈が、ようやく静かな寝息を立てたとき――
彼はそっと背もたれに身を預け、瞼を閉じた。
この夜は、ふたりにとって、
“はじまり”でも、“再確認”でもある、かけがえのない時間だった。
部屋はあたたかく、整っていて、安全なはずだった。
けれど、美香奈の呼吸は、徐々に浅くなっていく。
窓の外で鳴った、ごく小さな音。
冷蔵庫の唸るようなモーター音。
誰もいない空間に漂う、“異物”のような静寂。
「……っ、あ……あ……」
喉の奥で言葉にならない吐息がこぼれ、
胸の奥がぎゅうっと締めつけられていく。
“また来るかもしれない”
“ひとりでこのまま、またあの時のように――”
過呼吸。
腕が震え、指先がかじかみ、意識が遠くなる。
スマートフォンに手を伸ばし、
名前の文字を見つけた瞬間、涙がぶわっとこぼれた。
「……かみや、さん……」
迷う暇もなく、震える指で発信。
数コールのあと、受話器の向こうから、落ち着いた声が聞こえた。
『……橋口さん?』
その一言だけで、嗚咽がこみ上げた。
「ごめ、なさい……っ、こわ、くて……もう……どうしようも、なくて……」
『大丈夫です、すぐ行きます。待っててください』
通話が切れたあとも、しばらく美香奈は泣き続けていた。
***
それから十五分後――
ドアチャイムが鳴った。
駆け寄って確認したモニターには、
私服姿の神谷が立っていた。
髪が少し乱れ、明らかに家から飛び出してきたままだ。
「お待たせしました」
ドアを開けると、彼はいつもと変わらぬ口調で、
けれどほんの少し、息を切らしていた。
「来てくれて……ありがとう……」
涙で赤くなった目を見て、神谷は何も言わず、
玄関に用意されていたスリッパを履いて、そっと中に入った。
「落ち着くまで、ここにいます。……安心してください」
彼女が再び泣き崩れると、神谷は黙って肩を支えた。
毛布をかけ、照明を少し落とし、
呼吸が整うまで、ただ隣に座り続けた。
美香奈が、ようやく静かな寝息を立てたとき――
彼はそっと背もたれに身を預け、瞼を閉じた。
この夜は、ふたりにとって、
“はじまり”でも、“再確認”でもある、かけがえのない時間だった。



