「……吸って、吐いて。そう、いいですよ」
神谷の声は変わらず、静かで落ち着いていた。
右肩に添えられた手が、一定のリズムで軽く叩かれている。
そのわずかな刺激が、鼓動の乱れに少しずつ秩序を取り戻してくれるようだった。
美香奈は目を閉じ、数回、ゆっくりと呼吸を繰り返した。
息の音が、さっきよりも静かになる。
手に握っていたボールペンの感触が、はっきりと意識に戻ってくる。
「……すみません、大丈夫です。ちょっと、緊張してしまって」
そう言った美香奈の声は、まだ震えていたが、自分の意志で出されたものだった。
神谷は彼女の顔を横から見つめ、軽くうなずいた。
「無理はしないで。ゆっくり、自分の言葉で話してくれればいいですから」
刑事のほうに目を向けると、神谷は目配せで「彼女のペースに合わせてくれ」と合図を送る。
刑事も静かに頷き、質問用の書類に一度視線を落とした。
美香奈は、深く呼吸をひとつして――
そして、ゆっくりと口を開いた。



