「では、始めます」
 次の日の放課後、せりなと私が頭を下げる。

 生徒会室で氷室先輩と白砂先輩に生徒会全員いるなかで、
氷室先輩を笑わせなければならなかった。
「他の時間か場所ではダメなんですか?」
とせりなが他の生徒会のメンバーを見ながら白砂先輩に聞くと、
「ごめんね。部活の予算を決めるまで時間が無いんだ」
「すまない。まさか、すぐに来るとは思っていなかった」
と氷室先輩まで謝って来た。

 四人で顔を見合わせて、
「すぐじゃなくてよかったのなら、
もうちょっと、時間とっても良かったんじゃない?」
と照美が小声でささやく。

「でも、PCDAサイクルを回すなら早い方がいいよ」
と不思議ちゃんとは思えない現実的なことを言うルナだが、
昨日のファミレスの作戦会議でせりなが使った言葉を使いたかったのだろう。

 待つ間に、一緒に手伝うことになり、夕方遅くなっていた。ルナと照美は一人ずつ、
私とせりなの二人でやるつもりだったが、時間的に私とせりなの二人での漫才をすることになった。

「ねぇ。昨日、見た」とせりなが漫才を始める。
 昨日の今日でつくった即興のネタだが、面白いのか分からないまま、
とりあえずやってみようということになって、
やっているが氷室先輩の無表情というより呆れに近いものを感じる。

「何を?」
「もう、あんたって遅いわね」
「足が遅いのは言わないでよ」
「足が遅いって、そんなの今、関係ないわよ」
「じゃあ、何が遅いって言うの?」
「はやりよ」
「はやり! はやり病にかかったの? 大丈夫」とせりなの額に手を当てる。
「違うわ」と大きな動作で私の手を払うせりな。
 ここで笑いの一つも起きないかと思っていたけど、
氷室先輩はおろか、生徒会全員とルナと照美もクスリともしないで見ている。
 白砂先輩はもとから微笑んでいるような顔をしているから判定がわからない。
「人気の猫動画、見てたんだって」
このままやっても、無駄なんじゃないかという気になって
「白猫と黒猫が入れ替わってるやつね」とセリフが飛んでいた。

 、「飛ばさんといて」と背中をせりなに叩かれた。

 ハッとする。
「ゴメン。ゴメン……あの……えっと………」
 焦れば焦るほど、頭が真っ白になってセリフが出てこない。
「もう、ええわ」とせりなが無理やり終わらせた。
 クスッと失敗を笑う声は生徒会の人から漏れたが、氷室先輩は無表情に「次、頑張ってくれ」とダメ出しをされた。

「ゴメン」
「はじめてのことなんだから、仕方ないよ」とせりな。
「一晩で覚えるって難しいって、勉強と同じだよ」と照美。
「私は面白かったと思う」とルナ。
 4人での帰り道、肩を落として歩く私を三人が励ます。
「次の方法を考えよう」と照美がこぶしを固める。
「はじめから手強いのはわかっていたしね」とせりな。
「占いで先輩のツボを調べよう」とルナ。
 前向きなことを言って、先を歩く3人に私は叫ぶ。
「本当にゴメン。私がバカなことを言ったから」