本当に笑顔が素敵な女性(ひと)だった。
 オレも一緒にいれば彼女のように自然に笑えるのだと思っていた。なのに………。
「やっぱり、私じゃダメだったんだね」
 うつむいて、あの笑顔が無くなって、
胸が締め付けられるくらい苦しい気持ちになったのに、
オレは何も言えなかった。いや、何を言っていいのか、わからなかった。


「じゃあ、出来なかったら、氷室先輩を笑わせることができれば何も無し、
失敗したら学校の全部のトイレ掃除を一ヵ月で決まりですね」

 私の声にハッとする氷室先輩。
 真っ直ぐに見据える私の黒い瞳に氷室先輩の目の奥に揺れるものを見た気がした。

 じっと見ている氷室先輩が次に何を発するのか、4人が固唾を飲んで見守った。
「………がんばってくれ」と氷室先輩は大きなため息の後に
やっぱり感情のない声で条件を承諾した。

「では、期間は明日の朝からでいいですね」とせりなが確認する。
「うん。頑張って」と白砂先輩先輩がニコニコと答える。

「じゃあ、みんな、作戦会議よ。ファミレスでいいよね」
とさすが委員長だけあってリーダーシップを発揮しててきぱきと決めていく。
「さんせーい」と照美とルナが応える。
「失礼します」とせりなが出て行くと2人も続く。
私も続こうとして、何の気なしに振り返る。

 ドキッと心臓が鳴った。
 光りの加減で横を向いた氷室先輩が笑ったように見えたから、
でも、見間違いだった。瞬きをした後にさっきまでの無表情を崩さずに
白砂先輩に
「問題があったらお前が責任者だ」ときつく説教をしていた。

 私はすぐに生徒会室を出て、走ってせりなたちを追いかける。
 氷室先輩の笑顔が見れるなら私は何をしてもいいとこのときは、本気で思っていた。

「では、第一回 氷室先輩を笑わせよう会議を始めます」
とクソ真面目な顔をしてせりながファミレスで宣言をした。

「ジュース持って来ていい?」と状況を考えない照美。

「誘惑するおまじないでも試してみようかな?」と怪しげなサイトを探すルナ。

「漫才でもしてみる」ととりあえず、考え付く発言をした私。
「みんな。真面目に……あっ照美、飲み物、迷ってないで、さっさと帰ってきてよね」
「わかった」と開始、数秒でぐちゃぐちゃになっている。
 こんな調子で氷室先輩を笑わせることなんてできるのだろうか?
 私は氷室先輩よりも深いため息をついた。