「長岡さんにも、最後にもう一度ごあいさつに行かなきゃね」

ため息をつくのに忙しくて、全く荷造りが進んでいないママは、ついにその手を止めた。

「あっくんち、行くの? 私も行く」

「そうね、お世話になるのは、こまりだもんね。一緒に行きましょう」

マンション五階、503号室に鍵をかけて、私たちは隣の504号室のチャイムを鳴らす。

もうすぐ夏休みが終わる。
ひとり暮らしがはじまる。

──この時の私は、当然知ることもなかった。
ひとりが、再びふたりになるなんて。