ひとつ、ふたつ、ひみつ。

真尋くんの顔も、声も、いつも通り穏やか。
それが、話の内容と噛み合わなくて、心の中をざわつかせる。

「さみしかった? 真尋くん」

「どうかな、さみしかったのかな。よく分かんないけど、母さんがいなくても、そのあとの生活は別に辛くなかったよ。施設のみんなは、優しかったしね」


隣の家から、ベランダが開く音がした。
あっくんのママが、洗濯物を干しているんだと思う。

子どもの頃からずっとうらやましかった隣の“普通の日常”が、今日はなんだか異世界の出来事のように感じる。

「母さんがいなくなってから、初めての友達も出来た。住む場所も、コロコロと変えなくて良くなった。楽しかったと、思う。でも」

声に詰まった真尋くんが、うつむく。

「楽しいって感じるたびに、俺を責めるあの目が……。母さんの顔が、チラついて。俺がいるから、母さんは不幸だったのに」

震える声は、確かに大きな男の人のものなのに。
なんだか、小さな子どもの声に聞こえた。

「それからずっと、俺は俺を消す方法を考えてた。母さんの不幸を、最初からなかったことにするために」