ひとつ、ふたつ、ひみつ。


「俺、母さんの記憶って、ほとんどないんだ。小さい頃は、父さんのことがバレそうになるたびに、住むところが変わってさ。住んだことがあるのは、ここと、ここと、ここ。あ、こっちも。思い入れがある土地なんかも、ない」

「……」

ふたりでベッドにうつ伏せに寝転がって、私のスマホ画面に映された日本地図を指でたどりながら、真尋くんは淡々(たんたん)と思い出を語る。

「母さんはいつも仕事で忙しそうで、ほとんど家にいたことがない。たまに一緒にいる日でも、俺の顔を見ようとしないんだ。まぁ、そりゃそうだよな」

私のことを気づかっているせいなのか、真尋くんはわざと明るく振舞ってくれているみたい。

「母さんの声を聞く時はいつも、『あんたさえいなければ』、『また父さんに似てきた、最悪』、『私の人生返して』とか。大体この三パターンだったかな。あれ? 思ったより、母さんの記憶あったね。ごめん、嘘ついた」