「出会ってからしばらくは、ふたりは幸せだったんだって。父さんが、風桜国の人だってバレるまでは」

「……っ」

泣きそうな私の頬に、真尋くんの指が触れる。

優しい顔で、優しい温度で。
それは、私が知っている真尋くんと何も変わらないのに。

「それからは、まぁ……、本当に地獄だっただろうね。父さんは国に連行されていって、何も知らなかった母さんも共犯者扱い。周りにいた人が離れて、実家にも縁を切られて。ひとりぼっちで世の中に放り出された」

悲しい話をしているはずなのに、真尋くんの口元は穏やかに上向きで。

「本当に、ひとりぼっちならまだ良かったと思う。でも、その時にはすでに俺がお腹にいたんだ」

どうして、そんなことを言うの?

まるで、生まれなくなかったみたい。

私が、真尋くんを好きだって分かっているくせに、そんな話……。

……あれ?

罪になると知っていて、真尋くんが戻りたかった過去。
いつって……言ってた? 初めて会った日に。

そうだ、18年前。
真尋くんが生まれる、少し……前?

あれ……?