「ん」

真尋くんの声が、私の口元から聞こえる。

真尋くんの世界のただいまは、頬にキス。

なのに、唇に触れている感触には、覚えがある。

マスク越しにした、あの……。

……顔が、近い。
これは。

「っ……!!」

両手で押しのけて、瞬間的に距離をとる。

頬にするはずだった“あいさつ”は、多分直前で顔の向きを変えた真尋くんの唇に当たって……。

失敗した!
ていうか、私……キスした?

「ご、ごめ……っ、今の、あの……っ!」

顔が上げられない。
沸騰しそうなくらいに熱くて、恥ずかしくて、どうしたらいいのか分からない。

「こまり」

「っ……!」

名前を呼ぶ声が、少し戸惑っているように聞こえて、ますます顔が熱くなる。

どんな表情をしているのか、怖くて見ることが出来ない。

「ごめんなさ……っ、今のは、そうじゃなくて」

声が震える。

キス、した。
私、真尋くんと……。

ううん、違う。

「ち、違うの、事故なの……! そ、そんなつもりじゃなくて」