「こまり」

「……」

「おい、こまり」

「……えっ?」

名前を呼ばれて初めて、自分の意識がどこかに行ってしまっていたことに気付かされた。

現在地は、小さなカフェの一席。
目の前のテーブルには、私が自分で頼んだはずの、オムライスのランチセット。

私の名前を呼んだのは、もちろんあっくん。

「なんだよ、ボーッとすんな。手、止まってるぞ」

「あ、う、うん、ごめんね」

私は、ふた口ほど減ったオムライスに、スプーンを入れる。
ランチセットのスープは、湯気が消えていた。

このカフェには、お昼になったからと、あっくんとふたりで入った。
これまでにも何度もあっくんと利用したことがある、お気に入りのお店。

そこまでは、覚えてるんだけど……。

「お前、ここのオムライス好きだっただろ」

「うん。あっくんは、相変わらず梅のパスタしか注文しないね」

「ほっとけ」

あっくんとふたりで笑い合って、オムライスを口に運ぶ。

……ん?

「ねぇ、あっくん。ここ、少し来ていない間に、味変わっちゃったのかな?」

「変わってないだろ。いつもと同じ味」

「あれ? 本当?」

もうひと口。
変わってない……かな?
こういう味だっけ? 味覚が変わった?

好きだったはずなんだけどな……。

……なんか。
つい最近、真尋くんがお弁当で作ってくれたオムライスの方が、おいしかった気がする。