ひとつ、ふたつ、ひみつ。


「もう何回目か分からないけど、復唱! “こまりをすぐに抱きしめない”。はい」

リビングで向き合って正座をして、私は真っ赤な顔で説教。

やっと酸素が戻ってきた気分で、大きく呼吸をする。

胸に手を当てる。
はぁ……。音、おさまれ。もう……。

「こまりまで正座する必要はないんじゃないの?」

「そこはいいから。ちゃんと繰り返して言って」

「そうだ、こまりって昼は毎日購買に買いに行ってんの?」

「ごまかさないの。……うん、まあ、大体購買だけど。朝にコンビニで買ったりとか」

「大変じゃない? よかったら、俺、弁当作ろうか」

「えっ、本当?」

「こまりが、嫌じゃなかったら」

「嫌じゃないない! 真尋くんの料理、好きだもん、嬉しいっ」

購買のパンもおいしいからもちろん好きだけど、毎日同じものしか売っていないから飽きちゃうし。

だからといって、自分でお弁当を作るなんて発想は今までなかった。
ママに作ってもらったことだってない。

「あれっ、うちにお弁当箱あったかな。小学生の時のがどこかに……、あ、捨てたかも」

すぐに立ち上がって、リビングとキッチンを行ったり来たり(せわ)しない私を、真尋くんはそのたびに目で追ってクスクスと笑っている。