中庭で律先輩とふたりきり。
 静かでやさしい空気のなか、
 手と手がそっと重なって、胸がポカポカしてた。

 

 ——そのときまでは。

 

 

 「……ねぇ、それ、ルール違反じゃない?」

 

 

 びくっとしてふり返ると、
 ライトを片手に立っていたのは、陽向先輩。

 

 「研修中の単独行動、見回りで注意されるやつだよ〜?」
 「えっ、ま、待って、なんでここに……!?」

 

 「なんか予感して♡」

 

 

 続いて奏くんが、浴衣の袖を片方だけまくって登場。

 

 「おい。ねね、研修スケジュール忘れた?」
 「え……?」

 

 「“この時間は班別学習レポート制作”だっての。
  抜け出した時点で、普通に先生報告案件なんですけどー?」

 

 「ひぇえぇぇ……っっっ!!」

 

 

 「ま、心配になって、俺らで先に探したんだけどな」
 澪くんが、懐中電灯片手にスッと現れる。
 「……で、見つけたのがこのシーンっていう」

 

 「……君ら、サスペンスドラマの犯人捕まえる班?」

 

 

 そこへ、トドメの一言が。

 

 「“連れ戻してこい”って言ったのは俺だけどな」
 柊真先輩が、腕組みでにらみながら立ってた。

 

 「ひ、ひぃぃぃ……しっ、しんま先輩ぃ……っ!!」

 

 

 「先生、“まさかの1年が男子に連れ出されてる”って言ってたぞ。
  ……なんでオレが謝ってんだよ」
 「すっ、すみませんでしたぁぁぁ!!」

 

 

 そして、5人全員に囲まれて“包囲網”完成。

 

 陽向先輩:「ねねちゃん、怒ってないけど……さみしいよぉ?」
 奏くん:「隠れてこそこそしてたって事実が一番痛いなぁ」
 澪くん:「“僕らじゃダメだった?”って、聞きたい」
 柊真先輩:「お前ほんとにモテてる自覚ないのか?」
 律先輩(ぽそっと):「……ごめん。僕が、止めなきゃいけなかったのに」

 

 

 もう、涙出そう。違う意味で。
 でもその中で。

 

 

 「……なら、今から取り戻させて」
 律先輩が、スッと顔をあげて言った。

 

 「連れ戻すのがルールなら、
  僕も“君に届けたいこと”を、ちゃんと伝えさせて」

 

 え……えっ……??

 

 

 「今日、ほんとはずっと“誰にも渡したくない”って思ってた。
  でも、ちゃんと伝えないと、それはただの独占欲になる気がして——」

 

 「……ねねちゃん。
  次、誰かに名前を呼ばれたとき。
  “いちばん返事したい人”がいたら、教えてほしい」

 

 

 ……えっ、なにそれ、こ、こくは……
 いや、まだ“好き”とは言ってないのに、心臓はフルスロットルぅぅぅ!!!

 

 

 でも、そのとき——

 

 「ほら、いいから戻れ」
 柊真先輩が無言で私の背中を押して。
 「“勉強会”タイム、追加な」
 「えぇぇぇ!?!? 勉強の時間ですか!?!?!」

 

 

 「反省レポート書くよりマシでしょ?」
 奏くんが笑って肩を貸してくれる。

 

 

 そしてなぜか、
 わたしはそのまま全員に囲まれて“反省勉強会”へ連行。

 

 

 ——広間。
 机にはノートとペン、そして甘やかしフルメンバー。

 

 陽向先輩:「はい! やさしい図解付きの“九九復習プリント”♡」
 澪くん:「英単語、今日の分だけ詩にして覚えよう」
 奏くん:「正直この時間で“恋”も“歴史”も勉強するってすごくね?」
 柊真先輩:「1問ミスるたびに“男子の褒めセリフ”追加ルール発動な」
 律先輩(そっと耳元で):「……今夜は、これも“思い出”にしていい?」

 

 

 どの教科より、この人たちの存在がいちばん心を乱してくるんですけどぉぉ!!

 

 

 そしてそのとき。
 外から、小さな音が聞こえた。

 

 「……あっ」
 陽向先輩が、窓の外を指さす。

 

 

 ——ドンッ。

 

 夜空に、大きな花火が咲いた。
 湖の方で偶然始まった“地域の小さな花火大会”。

 

 

 澪くん:「……これは偶然なのか、運命なのか」
 奏くん:「まさかの、花火までタイミング完璧」
 柊真先輩:「とりあえず静かにしろ。見えねえ」
 陽向先輩:「みんな、ねねちゃんに向かって咲いてるね♡」
 律先輩:「……君の笑顔のほうが、ずっと綺麗」

 

 

 ——まって。
 ほんとにもう、無理。

 

 心がぎゅーってなって、
 今日のこと、忘れたくないって、思ってしまった。

 

 

 “勉強より恋のほうが難しい”って、前に思ったけど。

 

 今は、
 “恋があったから、今日をがんばれた”って、
 そう言える気がした。