旅館の広間に並んだ、ごちそうたち。

 

 湯気の立つお鍋、ふわとろの卵焼き、ピカピカのお刺身。
 もうそれだけで感動してたのに、そこに“甘やかし男子”たちが加わったら──

 

 世界、軽くバグりました。

 

 

 「ねねちゃんっ! まずはこの“きらきらお刺身セット”からどうぞ♡」
 陽向先輩が、自分の箸でわたしの皿にポンっと乗せてきた。

 

 「えっ、あの、それ先輩の分じゃ……」
 「いいのいいの♡ 食べさせて満たされるタイプだから、俺」
 「胃袋より承認欲求の方がすごいぃぃ!!」

 

 

 奏くんは、お味噌汁の椀を静かに差し出しながらひとこと。

 

 「これ、ちょい冷まし済み。俺の“息吹”入り」
 「やめてぇぇぇ! 湯気より色気が強いっ!!」
 「つーかさ、間接○○って気づいた?(ぼそ)」
 「そこまで言わないでぇぇ!!(顔面真っ赤)」

 

 

 澪くんは、焼き魚の小骨を取り除いて、
 何も言わずに、皿ごとわたしの前に置いた。

 

 「……魚、得意じゃないでしょ?」
 「えっ、わ、わたしそんな顔してました!?」
 「うん。骨の多さと向き合えない目だった」
 「どんな観察力ぅぅ!!」

 

 

 柊真先輩は無言で、私のご飯茶碗にふりかけを乗せてくれる。

 

 「え……これ、さっき先輩が自分のご飯に使ってたやつ……」
 「お前、好きそうだったから」
 「さりげなすぎて恋の香りしかしない……っ」

 

 

 そして最後に、律先輩。

 

 私の手元を見て、静かに一言。

 

 「……箸、逆さまになってるよ」
 「ふぇっ、わ、わたし今まで逆で食べてました!?!?」
 「ううん、これから気づけたから大丈夫。……直すね」

 

 

 そっと、私の箸を持ち直してくれるその手が、
 あたたかくてやさしくて。
 目が合った瞬間、思考もすべてフリーズした。

 

 

 「……ありがとう、ございます」
 「今日のねねちゃん、ほんとにがんばってるから」
 「……わたし、なにもしてないのに……」
 「それでも“かわいくてがんばってる”って、成立するんだよ」

 

 

 ダメだ。
 この人、甘やかし方が呼吸レベル。

 

 

 ——というか、今日だけで何回照れてるんですか、わたし。

 

 

 すると、陽向先輩がにこにこと近づいてきて、
 こっそり耳元でささやいた。

 

 「ごはんのあとはさ、ちょっとだけ内緒で抜け出さない?」
 「えっ……!?」

 

 

 「君に言いたいこと、あるから」

 

 

 その言葉が、
 食事の甘さよりずっと、
 わたしの心をあたためていった。

 

 

 ——これ、食べすぎじゃなくて、
 “ときめき満腹”で倒れるやつです……っ!!