朝7時、学校前——
集合時間よりも30分早く着いてたのに、
すでに私の心臓は限界を迎えようとしていた。
なんていったって、今日から研修旅行だからね。
この研修旅行は、
“文化教養合宿”って名前の、ちょっと特別なイベント。
学年をこえて、1年生から3年生までが一緒に参加する、
進学コース限定の混合合宿なんだって。
正直、私はなんで選ばれたのか分からないけど……
「がんばってみたいです」って書いた推薦用紙が、
先生のハートに刺さったらしい。
気づけば、周りは全員、憧れの先輩たち。
しかも、ちょっとだけ運命が動きそうな予感しかしない——そんな旅のはじまりだった。
予感が当たってしまったのか早速、先生が衝撃の一言。
「バスの席は……くじ引きで決めます」
く、くじ!?
そんな運ゲー、恋愛ゲームに搭載されてたら難易度Sランクじゃないですか!!
「ねねちゃんっ! くじ、引いた!?」
陽向先輩がキラッキラの笑顔で駆け寄ってくる。
「え、あ、はい……いちばん前の右側です……」
「おぉ〜! オレ、左の隣♡ これ、もうデートでしょ?」
「ええええ!? バスで恋愛成立しないでぇぇ!!」
その直後、奏くんがぽんっと私の肩をたたいてきた。
「俺、最後列な。つまり……おまえ、今日絶対見てるだろ?」
「え、な、なにを!?」
「俺の後ろ姿。かっこよすぎて惚れるなよ?」
「ちょ、何その“背中で口説く系男子”のテンション!!」
そして、律先輩が静かに現れた。
ふつうに歩いてるだけなのに、スローモーションに見える。
なんで……この人、毎回空気ごと変えてくるの……。
「ねねちゃん」
「……せ、先輩っ……!」
「僕、ねねちゃんの隣の席、だって」
「…………はい?????」
陽向先輩:「え!? え!? 俺の隣じゃ……あ、左右逆だコレ!!」
奏:「ミラクル起きすぎでは?」
柊真先輩(遠くから):「うるさい」
澪くん(窓越し):「恋の席順って、予測不能なんだね」
律先輩が、私の隣にふわっと座った。
距離、近い。いや、“隣”ってそういうことだけど、
わたしの心臓、すでに爆走してる。
「……緊張、してる?」
「うっ……ちょっとだけ……」
「じゃあ、手、貸して?」
えっ?? て、手……!?
そっと差し出された手のひらに、
私は思わず、自分の指を重ねてしまった。
「これで、ちょっとは落ち着くかなって思って」
律先輩……このバス、密室だってこと知ってます……!?
わたし今、気絶コースなんですけど!?
そこへ、陽向先輩が前の席から振り返ってきた。
「ねねちゃん、さっきから顔赤いけど大丈夫〜?
もし酔ったら、俺の肩貸すよ♡(ニヤ)」
「いや、酔い止めより刺激が強いですぅぅ!!」
奏くん(通路をすれ違いざま):「なんか、もう既に修羅場ってて草」
柊真先輩(前の席の後ろから):「静かにしろ。バス揺れる」
澪くん(冷静):「僕、移動中に俳句作る予定なんだけど、騒音がすごい」
カオスすぎる。
このバス、なに? “恋と地獄の高速道路”???
でもその中で、
隣で静かに笑う律先輩の横顔だけが、
ずっと変わらず落ち着いてて、すこしだけ、甘くて。
「ねねちゃん」
「……はい」
「この旅行で、もっと君のこと知れるといいな」
「……え、えええええっ!!???」
恋の予感が強すぎて、
もう旅行の“目的地”が、“私の心臓”になってるんですけどっ……!!
出発のチャイムと一緒に、
恋の“非日常”が、静かに、でも確かに走り出した——。

