テストが終わった日、
 わたしの心の中は、真っ白だった。

 

 “やりきった”って感じじゃなくて、
 “やらかした”って感じが近い。

 

 でもそれ以上に、ずっと頭の中でリピートされてるのは——

 

 《終わったら、ぎゅーしてもいい?》

 

 律先輩の声だった。

 

 それを思い出すたびに、胸がバクバクして、
 答案用紙の文字が全部ハートに見えた。

 

 ……集中できるわけがないぃぃ!!

 

 

 そんなこんなで迎えた、テスト返却日。

 

 わたしは朝から胃が痛くて、
 プリント見る前に保健室行きそうだったけど……

 

 

 「じゃーん! 陽向、英語92点っ☆」
 「数Ⅰ、満点だっつーの。天才」奏くんがドヤ顔でプリント掲げる。
 「俺、理科も社会も満点だが?」柊真先輩はいつも通りクール。
 「ふふ……全教科90点台、どうだった?」澪くんはサラッと笑う。

 

 

 な、なにこの人たち!?
 全員そろって進学校の異次元組ですか!?!?!?

 

 

 「やば……みんな……すごすぎて……」

 

 私がプリントをチラ見せした瞬間、全員が集まってきた。

 

 

 「えっ、ねねちゃんすごいじゃん! 英語、71点!!」陽向先輩がキラキラ。
 「社会50点……俺の語呂合わせ、刺さった?」奏くんがしたり顔。
 「国語67点。上出来」柊真先輩は腕組みながらぽつり。
 「数学が42点なのは、……誤差」澪くんが無表情でフォロー。

 

 

 うぅ……それ、フォローなの……!?
 でも……こんなに褒められるの、はじめてかもしれない。

 

 

 「ねねちゃん」
 声に振り向くと、律先輩が少しだけ笑って、わたしに近づいてきた。

 

 

 「理科、56点。前よりすごく伸びてた」
 「……先輩が、教えてくれたからです」
 「うん。でも頑張ったのはねねちゃん。……えらいね」

 

 

 “えらいね”って、
 律先輩に言われると、それだけで泣きそうになる。

 

 

 「……で、“ごほうび”って……まだ……?」

 

 自分から聞いておいて、
 すぐに顔が熱くなって後悔した。

 

 

 律先輩はふっと笑って、
 わたしの手を、そっと取る。

 

 

 「今、ぎゅーすると、ねねちゃん倒れそうだから——」

 

 そう言って、わたしの頭に、ぽんっと手を置いた。

 

 

 「今日は、これだけ。……よくがんばったね」

 

 

 その一言で、
 テストより何十倍も緊張したわたしの3日間が、報われた気がした。

 

 

 でも、そのあと。

 

 

 陽向先輩:「おつかれ〜♡ ご褒美にパフェ行こうよ! いちご4段盛りな!」
 奏くん:「俺は回転寿司派。“回る机で恋も回る”って言うだろ」
 澪くん:「……そんなこと誰も言ってない」
 柊真先輩:「静かなとこがいい。騒ぐな」←騒いでるの奏くんです

 

 

 ……まって、わたしの人生、
 これから何段階でときめかされるんですか……!?

 

 

 まだ返却されたプリント握ってるのに、
 今、いちばん気になってるのは——
 どの先輩と帰ろうかってことだった。

 

 

 こんなに甘いご褒美、
 きっと、世界でわたしだけにしか配られてないと思う。