年上男子、全員私にだけ甘すぎる件

 

 ——テストって、どうしてこんなにも急にやってくるんだろう。

 

 昼休み、図書室のいちばん奥の席。
 教科書を開いた羽瀬川ねねは、声にならない悲鳴をあげていた。

 

 

 「……っ、え……? うそ……これ、来週……?」

 

 

 プリントの端っこに、小さく書かれた“試験日程”。
 その文字を見た瞬間、思考が一瞬止まった。
 色々あってすっかり忘れてた…。
 

 

 ノートはスカスカ。
 小テストの点数は、たぶん先生が泣いちゃうくらいで。
 漢字も怪しいし、地図記号も……えっと、まるいのって、風車……?

 

 

 「わたし……やばいかも……」

 

 

 顔をおさえてしゅんってなっていたとき、
 ふわっと甘い声が耳に届いた。

 

 

 「ねねちゃん、なんか……泣きそう?」

 

 

 振り返ると、陽向先輩がメロンパン片手に、こっちをのぞき込んでいた。
 いつも通り、明るくて、優しい笑顔。

 

 

 「どうしたの? ……失恋? 寝不足? それとも……テスト期間、忘れてた?」

 

 

 図星だった。完全に。

 

 

 「ぜ、ぜんぶ当たってる気がします……」

 

 

 机に突っ伏すねねに、陽向先輩が苦笑しながら言った。

 

 

 「かわいいけど、やばいね」
 「か、かわいくないですっ……!!」

 

 

 そのやりとりの隙間に、ぴょこっと現れたのは奏くん。

 

 

 「ねね、小テスト3点ってマジ?」

 

 

 「な、なんで知ってるの!?!?」

 

 

 奏くんはスマホの画面をくるっと見せてきた。
 そこには、ねねの答案らしき写真が。

 

 

 「えぇぇ!? どこから流出したのそれ!?」

 

 「俺の友達が教務課にいてさ〜」
 「友達使いすぎですぅぅっ!!」

 

 

 思わずぷるぷる震えていたら、
 今度はカウンターの向こうから、静かな声が聞こえた。

 

 

 「騒がしいと思ったら……そんなことになってたんだね」

 

 

 東雲 律先輩が、本を閉じてこちらを見ていた。
 低くて優しい声。だけど、その目は少しだけ真剣で。

 

 

 「ねねちゃん、もしよかったら……僕、勉強、手伝うよ」

 

 

 その一言で、胸がきゅってなった。

 

 

 責めるでも、笑うでもなくて。
 ただ、まっすぐに“助けようとしてくれてる”のが伝わってきて。

 

 

 「……ほんとに、いいんですか……?」

 

 

 「もちろん。……僕、ねねちゃんの“がんばる顔”、好きだから」

 

 

 その言葉が、胸にふわっと落ちた。
 鼓動の音が、聞こえそうなくらい高鳴る。

 

 

 「じゃあさ!」
 陽向先輩が手を叩いて立ち上がる。
 「律先輩も奏もいるし……これ、もう“勉強合宿”しかなくない?」

 

 

 「合宿!?」ねねは即座に反応した。

 

 「放課後、カフェ貸し切って、ねねちゃん特訓しよう」
 「はいはい、俺がスケジュール管理してやるよ」奏くんも、当たり前みたいに頷いた。

 

 

 ねねは机に突っ伏して、顔を真っ赤にしながらぼそっとつぶやく。

 

 

 「やさしい……でも、やさしすぎて逆に死にそうです……」

 

 

 それを聞いた律先輩が、くすっと微笑んだ。

 

 

 「じゃあ……死なないくらいで、甘やかすね」

 

 

 その笑顔に、また心臓が跳ねる。

 

 

 ——たぶん今日のわたし、
 テストよりも、もっと難しい問題に出会ってしまった。

 

 それは、
 “東雲律先輩の優しさに、ときめかずにいられる方法”。

 

 

 ……そんなの、教科書にも載ってない。