おうちに帰って、制服をそっとハンガーにかけたとき。
 あの瞬間が、頭の中にふわっとよみがえった。

 

 冷たい水。
 守ってくれた背中。
 何も言わずに、でも確かに“味方”になってくれたみんなの姿。

 

 

 「……わたし、なにしてるんだろう」

 

 

 誰かに優しくされるたびに、
 どうして“申し訳ない”って思っちゃうんだろう。

 

 どうして、“ありがとう”ってちゃんと伝えられないんだろう。

 

 

 「……でも、ほんとは——すごく、うれしかったのに」

 

 

 こぼれそうになった涙を、
 ゆっくり、指先でぬぐう。

 

 

 怖かった。
 あの場所も、あの言葉も、
 すべてが、自分の存在を否定されたようで。

 

 でも、あの瞬間、
 守ってくれた“あたたかさ”は、
 それを全部、やさしく包んでくれた。

 

 

 “好き”って、たぶん、
 はじめはこんなふうに気づかないまま、
 心の中でじんわり膨らんでいくんだと思う。

 

 

 まだ、名前はつけられない。
 でも私のなかに、
 確かに「誰かを思う気持ち」が芽生えた気がしてる。

 

 

 守られるって、こんなにも、
 胸の奥をあたたかくするものだったんだ。