お昼休み。
 今日は、お弁当をどこで食べようか、少しだけ迷っていた。

 

 誰かと食べたいわけじゃなくて。
 でも、ひとりでいたいわけでもなくて。

 

 そんな気持ちを抱えたまま、
 校舎の裏手、使われていない渡り廊下のベンチに腰かけた。

 

 

 日差しはすこし眩しくて、
 でもどこかやさしかった。

 

 そっとお弁当の包みを広げたとき——

 

 

 「やっぱりここだった!」

 

 

 ぱたぱたと足音と一緒に、
 ふわっと風みたいな声が聞こえた。

 

 

 「陽向……先輩?」

 

 

 「なんとなく、ここにいるかなって思って」
 「……どうして、ですか?」

 

 「ねねちゃんが、静かで光があるところ好きなの、知ってるから」

 

 

 あたりまえのようにベンチの隣に座って、
 自分のお弁当のフタを開ける。

 

 

 「……一緒に、食べていい?」
 「えっ、あっ、もちろんです……!」

 

 

 なんでもない言葉なのに、
 胸の奥がぽわっとあったかくなった。

 

 

 「最近、ねねちゃん、ちょっと元気なかったからさ」
 「……えっ、そうでしたか?」

 

 「うん。表情、いつもより静かだった」

 

 

 陽向先輩の言葉は、
 不思議と刺さらない。
 やわらかくて、あったかくて、ふわっと溶けていく。

 

 

 「ねねちゃんが笑ってくれるとね、安心するんだよね」
 「……え、どうして……」

 

 「なんかこう、“今日も平和だ”って感じがする」

 

 

 ふふって笑う陽向先輩につられて、
 わたしも思わず笑ってしまった。

 

 

 笑っちゃだめって思ってたのに。
 ちょっとくらい我慢しようって思ってたのに。

 

 笑ったら、すこしだけ、
 さみしさも一緒にこぼれてくれた気がした。

 

 

 「笑ったー! よかったー! ってことは、今日も平和だね」
 「……先輩って、ほんとに変わってますね」
 「ほめてる? けなしてる?」

 

 「ちょっとだけ、ほめてます」
 「ちょっとだけって!?」

 

 

 そんな他愛もない会話が、
 こんなにうれしいなんて思わなかった。

 

 

 昨日の私に、言ってあげたい。

 

 “ちゃんと笑える日がくるよ”って。
 “ちゃんと笑わせてくれる人がいるよ”って。

 

 

 陽向先輩の笑顔は、
 太陽みたいにあたたかくて、まぶしかった。

 

 

 そして私は——
 “守られた”だけじゃなく、“救われた”気がした。