陽向先輩の“顔面ダイブ事件”で、私の体力はだいぶ持ってかれていた。
 もう笑いすぎて腹筋とメンタルが限界。

 

 でも、静かな場所に避難しようとしたその先に、
 まさかのさらなる事件が待っているなんて、誰が思っただろうか。

 

 

 図書室のドアを開けた瞬間、私は息をのんだ。

 

 ……いる。
 それはもう、“気配だけでバレる存在感”。

 

 「……来ると思ってた」

 

 やっぱりいた、澪くん(自称・読書界の影の王子)。
 いつの間にか、図書室の一番奥で静かに私を待ち伏せしてた。

 

 てか、怖いよ!? その登場演出、サスペンスかホラーかどっち!?!?

 

 

 「今日、騒がしかったね」

 

 「……いや、それは私じゃなくて周りが……」

 

 「陽向、今日で4回くらい転んでたよ」

 

 「数えてたんかい!!!!」

 

 

 澪くんは、スッと私の隣の席を引いて座る。
 机の上には、1冊の本。

 

 「これ。君に似合うと思って」

 

 「……“静かなる愛、そして地獄”……ってタイトル怖くない!?」

 

 「内容は軽いよ。“無言で恋に落ちて、なにも伝えられず死ぬ話”」

 

 「どこが軽いんですか!!!???もはや幽霊じゃん!!」

 

 

 そのあとも、澪くんはページをめくるたび、
 なぜか私にナチュラルに感想を言ってくる。

 

 「……ここ、主人公が“目が合った”だけで好きって気づくシーン」
 「……ねねちゃん、今日、誰と一番目が合った?」

 

 「質問の角度が怖い!!!!なんでアンケート方式なの!?!?」

 

 

 「じゃあ、ページめくるたびに“好き度”上がるの、共感できる?」

 

 「こわいこわいこわいこわい!!本の話だよね!?今それ本の話だよね!?!?」

 

 

 極めつけは、
 静かな図書室にひそひそと忍び寄ってきた陽向&柊真先輩。

 

 「ねねちゃ〜ん、ここいた〜♪」
 「ねねちゃん、昼の“ラテメモ事件”の言い訳タイムかな?」

 

 (※【前章参照】メモを拾われて教室カオス化事件、現在進行形)

 

 私が「お願いだからこの空間に入ってこないで……!」とテレパシーを送った瞬間、

 

 澪くんが、
 しおりで“パシン”と机を叩いた。

 

 「今、読書中」

 

 「えっ」
 「……こわッ!!!!」

 

 陽向と柊真、まさかの退散。
 その背中に「図書室怖い」って文字が見えた気がした。

 

 

 でも、そのあと澪くんがぽつり。

 

 「……別に怒ってないよ。
  ただ、“静かに好きでいたい”って思ってるだけ」

 

 その言葉に、笑いすぎて痛かった胸の真ん中が、
 ふっと、あったかくなった。

 

 

 ——ちょっとだけ、ずるいな。
 笑わせてくれるみんなも好きだけど、
 こうして静かに刺してくる人のこと、
 私、ちゃんと見てる気がする。