隣の席の室井くん①



「仕上げは~」


そんな翔にお構いなしに俺は、その綺麗な顔に乗せられた黒ブチのソレに手をかける。


「わ」


眼鏡を取られた翔が顔をしかめた。


「はい、完成~♪」

「返してよ亮介!ソレないとなんも見えない」


目を細めながら、手を伸ばし取られた眼鏡を追う。
それを、イジメっ子のように高く掲げ

「翔」

と言えば、ピタリとその手を止め顔を上げた。


「お前は今からショウだ。室井翔じゃねぇ」

「・・・・・・」

「大丈夫だ。ここにお前を知ってるヤツはいない」

「・・・・・・」



その様子を、楽器を手にしたやなぎんとイッチーが黙って見守る。


目を細めていた翔もふ、と表情を消した。


「ここにいるヤツらは、俺らの演奏と"ショウ"の歌を聴きにきてるヤツらだ。」


薄暗い舞台袖で、微かなライトに照らされた翔の顔は
白く、透き通った色をしていて

そこに並べられた母親譲りの綺麗なパーツは
誰もが振り返るほどに整っている。

それを微かに歪めながらも翔は黙ったまま俺の言葉を聞いていた。


「それでも怖けりゃ、眼鏡ナシのその両目かっぴらいて見てみろ。どーせド近眼のお前には、ぼやけてなんも見えやしねぇ!!」


ぎゃははと笑う俺を


「ばっか!!静かにしろよ」と、やなぎんが制す。
舞台袖のスタッフがギロリと睨みを利かすから
「こえ~こえ~」と肩をすくめた。


そんな俺を目を細めて見ていた翔は


「・・・はぁ」


とため息をついて、肩の力を抜いた。



「もう知らない。どうなっても俺のせいにしないでね」


開き直ったかのように眉を下げた翔を見て


「おう!!バッチこいだ!!」

俺は、愛しのピンクのマイギターを背負い直す。



「次、SnakeFoot出まーす!!」



スタッフの声に


「よっしゃ!!行くぜ!!折角の初ライブなんだから楽しも~ぜ~い!!」



俺達は、それぞれ楽器を掲げて

スポットライトの当たる
狭いステージに向かって
足を進めた。



オレンジやピンク、青に紫
色とりどりのライトを浴びてステージ上に立てば


観客は「誰コレ?」といった表情で俺達を見上げた。

やなぎん、イッチー、俺の順に上がり
最後に、のそりのそりと翔がステージに上がる。

その瞬間、フロアがざわめく。


「え、あのボーカル・・・」
「ちょ・・・かっこよくない?」


ザワザワとざわめく観客に翔の顔が硬直する。

それを苦笑いに横目で見た俺は、立ち位置にスタンバイされたスタンドマイクを握った。


「ど~も~!!SnakeFootで~す!!」


すると、観客の目は翔から俺に移る。


「え~と、俺ら今日が初ライブなんすよ~、だから緊張してまっす!!」


クスクスと笑い声が漏れ、俺はニンマリと笑みを作る。


「特に、ウチのボーカル超緊張してるんで~、歌詞間違っちゃっても笑って許してあげてね~!!」


どっと笑い声があがり「頑張れ~」なんて声まであがると、やなぎんが


「おいおい、いきなりそこからか?」


と苦笑いする。


「ぎゃはははは!!いいじゃねぇのよ!!こんくらいで!!」

「お、おい!!ステージ上でそのテンションは勘弁してくれよ亮介」


慌てたやなぎんに、再びフロアから笑いが漏れた。


「んじゃ、掴みはオッケーそうなんで!早速曲いきま~す!!今日は急遽飛び入り参加だったんで一曲なんだけど~よかったら聞いてくださ~い!!マイナークラウンでPacifism!!」



俺の言葉を合図に



ーーカン、カン、カン


イッチーのドラムの音が
ステージ上に響いた。