「仕上げは~」
そんな翔にお構いなしに俺は、その綺麗な顔に乗せられた黒ブチのソレに手をかける。
「わ」
眼鏡を取られた翔が顔をしかめた。
「はい、完成~♪」
「返してよ亮介!ソレないとなんも見えない」
目を細めながら、手を伸ばし取られた眼鏡を追う。
それを、イジメっ子のように高く掲げ
「翔」
と言えば、ピタリとその手を止め顔を上げた。
「お前は今からショウだ。室井翔じゃねぇ」
「・・・・・・」
「大丈夫だ。ここにお前を知ってるヤツはいない」
「・・・・・・」
その様子を、楽器を手にしたやなぎんとイッチーが黙って見守る。
目を細めていた翔もふ、と表情を消した。
「ここにいるヤツらは、俺らの演奏と"ショウ"の歌を聴きにきてるヤツらだ。」
薄暗い舞台袖で、微かなライトに照らされた翔の顔は
白く、透き通った色をしていて
そこに並べられた母親譲りの綺麗なパーツは
誰もが振り返るほどに整っている。
それを微かに歪めながらも翔は黙ったまま俺の言葉を聞いていた。
「それでも怖けりゃ、眼鏡ナシのその両目かっぴらいて見てみろ。どーせド近眼のお前には、ぼやけてなんも見えやしねぇ!!」
ぎゃははと笑う俺を
「ばっか!!静かにしろよ」と、やなぎんが制す。
舞台袖のスタッフがギロリと睨みを利かすから
「こえ~こえ~」と肩をすくめた。
そんな俺を目を細めて見ていた翔は
「・・・はぁ」
とため息をついて、肩の力を抜いた。
「もう知らない。どうなっても俺のせいにしないでね」
開き直ったかのように眉を下げた翔を見て
「おう!!バッチこいだ!!」
俺は、愛しのピンクのマイギターを背負い直す。
「次、SnakeFoot出まーす!!」
スタッフの声に
「よっしゃ!!行くぜ!!折角の初ライブなんだから楽しも~ぜ~い!!」
俺達は、それぞれ楽器を掲げて
スポットライトの当たる
狭いステージに向かって
足を進めた。
オレンジやピンク、青に紫
色とりどりのライトを浴びてステージ上に立てば
観客は「誰コレ?」といった表情で俺達を見上げた。
やなぎん、イッチー、俺の順に上がり
最後に、のそりのそりと翔がステージに上がる。
その瞬間、フロアがざわめく。
「え、あのボーカル・・・」
「ちょ・・・かっこよくない?」
ザワザワとざわめく観客に翔の顔が硬直する。
それを苦笑いに横目で見た俺は、立ち位置にスタンバイされたスタンドマイクを握った。
「ど~も~!!SnakeFootで~す!!」
すると、観客の目は翔から俺に移る。
「え~と、俺ら今日が初ライブなんすよ~、だから緊張してまっす!!」
クスクスと笑い声が漏れ、俺はニンマリと笑みを作る。
「特に、ウチのボーカル超緊張してるんで~、歌詞間違っちゃっても笑って許してあげてね~!!」
どっと笑い声があがり「頑張れ~」なんて声まであがると、やなぎんが
「おいおい、いきなりそこからか?」
と苦笑いする。
「ぎゃはははは!!いいじゃねぇのよ!!こんくらいで!!」
「お、おい!!ステージ上でそのテンションは勘弁してくれよ亮介」
慌てたやなぎんに、再びフロアから笑いが漏れた。
「んじゃ、掴みはオッケーそうなんで!早速曲いきま~す!!今日は急遽飛び入り参加だったんで一曲なんだけど~よかったら聞いてくださ~い!!マイナークラウンでPacifism!!」
俺の言葉を合図に
ーーカン、カン、カン
イッチーのドラムの音が
ステージ上に響いた。
