「あん時は、お前一人だったけど、今は違うだろ。俺らも一緒だ。お前の歌を叫べばいんだよ」
翔が、前髪の合間から俺を見据える。
探るような目でジっと。
「大~丈夫だって!!緊張して歌詞忘れても、英語だからフンフンフ~ン♪とか言っときゃなんとかなるしよ~ぎゃはははは!!」
「・・・・・・」
真剣な目をしていた翔が
目を細めため息をついた。
それにニヤリと笑い
「お前の歌、聞かせてやれよ皆に」
と告げれば
「・・・知らないからね」
諦めたように、小さな声で翔がため息混じりに呟いた。それに俺達は顔を見合わせて
「いよっしゃぁぁぁ!!」
ガッツポーズを交わした。
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ーーー薄暗いステージ裏。舞台袖。
それぞれ楽器を手にしてスタンバイをする。
「曲は、この前倉庫でお前が歌ったマイナークラウンのPacifismだ」
やなぎんが楽譜を見せながら翔に説明をする。
「歌詞は全部覚えてるんだよな?」
それにコクンと頷いた翔は、顔面蒼白でその場に立ちすくむ。
「大丈夫か?」
「・・・大丈夫じゃないよ」
舞台袖から見える観客は
フロアにぎっしりとはいかないまでも、それなりに人は入っていてステージ上のバンドを見上げている。
「ひょー!!わっくわくすんなぁ!!」
「呑気だな亮介は」
呆れ顔でやなぎんがため息をつく。
「だーってよー!!やっと音量バリバリでギター弾けんだぜ!!?ワクワクすんじゃん!!」
「翔だけじゃないぞ、俺らだって練習したって言っても倉庫の中でボリューム下げてヒッソリ練習した程度だ」
「なんとかなるっしょ~!!」
心配そうなやなぎん。
相変わらず表情の読めない無表情のイッチー。
そして青白い顔で微かに震える翔。
けど、俺はワクワクしてどーしようもなかった。
一曲だけだけど、俺らSnakeFootの初ライブ。
早く聞かせてぇ。
音を吐き出したくて仕方がないこのピンクのギターも
やなぎんの唄うようなベースも
力強いイッチーのドラムも
そして
このモヤシのようにヒョロヒョロの翔の歌も。
「翔」
壁にもたれて今にも死にそうな顔をしている翔の肩に手を乗せる。
体温の低い、ヒンヤリとした翔の体が小さく揺れた。
「んな青っ白い顔してんなよな~」
「・・・誰のせいだと思ってんの」
もっさりとした髪の毛の間から黒ブチ眼鏡が覗く。
白いTシャツにダメージジーンズ。
黒いハイカットのブーツ。
服装はいいとして。この風貌、今から歌うヤツとは思えないもっさり感だ。
「イッチー、ピン持ってる?」
「あぁ」
「んじゃヨロシク~」
イッチーがポケットから数本のアメピンを取り出すと
「うわっ・・・!!何すんの」
俯いていた翔の髪の毛を背後からイジリだす。
器用に髪の毛を上げ、順にピンで留めていく。
背後から羽交い締めにされた翔はされるがままだ。
「できた」
イッチーによって長いもっさりとした前髪が、綺麗に上げられ、隠れていた翔の顔があらわになった。
「顔がすーすーする」
眉を潜めながら、髪の毛を下ろそうとする翔の手を抑える。
「器用だろ~イッチー。コイツん家、美容室なんだぜ~?」
「やだよ、外してよ」
顔を見られるのを極端に嫌う翔は、益々しかめ面になった。
