隣の席の室井くん①




「あん時は、お前一人だったけど、今は違うだろ。俺らも一緒だ。お前の歌を叫べばいんだよ」


翔が、前髪の合間から俺を見据える。
探るような目でジっと。


「大~丈夫だって!!緊張して歌詞忘れても、英語だからフンフンフ~ン♪とか言っときゃなんとかなるしよ~ぎゃはははは!!」

「・・・・・・」


真剣な目をしていた翔が
目を細めため息をついた。

それにニヤリと笑い



「お前の歌、聞かせてやれよ皆に」



と告げれば



「・・・知らないからね」



諦めたように、小さな声で翔がため息混じりに呟いた。それに俺達は顔を見合わせて



「いよっしゃぁぁぁ!!」



ガッツポーズを交わした。





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ーーー薄暗いステージ裏。舞台袖。


それぞれ楽器を手にしてスタンバイをする。


「曲は、この前倉庫でお前が歌ったマイナークラウンのPacifismだ」



やなぎんが楽譜を見せながら翔に説明をする。


「歌詞は全部覚えてるんだよな?」


それにコクンと頷いた翔は、顔面蒼白でその場に立ちすくむ。


「大丈夫か?」

「・・・大丈夫じゃないよ」


舞台袖から見える観客は
フロアにぎっしりとはいかないまでも、それなりに人は入っていてステージ上のバンドを見上げている。


「ひょー!!わっくわくすんなぁ!!」

「呑気だな亮介は」


呆れ顔でやなぎんがため息をつく。


「だーってよー!!やっと音量バリバリでギター弾けんだぜ!!?ワクワクすんじゃん!!」

「翔だけじゃないぞ、俺らだって練習したって言っても倉庫の中でボリューム下げてヒッソリ練習した程度だ」

「なんとかなるっしょ~!!」



心配そうなやなぎん。
相変わらず表情の読めない無表情のイッチー。

そして青白い顔で微かに震える翔。


けど、俺はワクワクしてどーしようもなかった。


一曲だけだけど、俺らSnakeFootの初ライブ。
早く聞かせてぇ。

音を吐き出したくて仕方がないこのピンクのギターも
やなぎんの唄うようなベースも
力強いイッチーのドラムも

そして
このモヤシのようにヒョロヒョロの翔の歌も。



「翔」


壁にもたれて今にも死にそうな顔をしている翔の肩に手を乗せる。

体温の低い、ヒンヤリとした翔の体が小さく揺れた。


「んな青っ白い顔してんなよな~」

「・・・誰のせいだと思ってんの」



もっさりとした髪の毛の間から黒ブチ眼鏡が覗く。

白いTシャツにダメージジーンズ。
黒いハイカットのブーツ。

服装はいいとして。この風貌、今から歌うヤツとは思えないもっさり感だ。


「イッチー、ピン持ってる?」

「あぁ」

「んじゃヨロシク~」


イッチーがポケットから数本のアメピンを取り出すと


「うわっ・・・!!何すんの」


俯いていた翔の髪の毛を背後からイジリだす。

器用に髪の毛を上げ、順にピンで留めていく。
背後から羽交い締めにされた翔はされるがままだ。


「できた」


イッチーによって長いもっさりとした前髪が、綺麗に上げられ、隠れていた翔の顔があらわになった。


「顔がすーすーする」


眉を潜めながら、髪の毛を下ろそうとする翔の手を抑える。


「器用だろ~イッチー。コイツん家、美容室なんだぜ~?」


「やだよ、外してよ」


顔を見られるのを極端に嫌う翔は、益々しかめ面になった。