ーーージャーン
曲が終わると同時に
「ーーーっっ」
目の前の細い体がフラリ、と傾く。
「翔!!?」
やなぎんがベースを手にしたまま駆け寄ると
「・・・無理」
と、青白い顔をした翔が
地面に倒れ込んだ。
オイオイオイ。
たった一曲で酸欠かよ。
「ヒャヒャヒャ!!おっ前どんだけモヤシっ子なんだよ!!」
俺もギターを立て掛け倒れた翔に近付く。
「だって・・・こんな大声出したの初めてだもん」
イッチーもスティックを置くと、ゆっくりと椅子から立ち上がった。
それぞれが、囲むような形で翔を見下ろす。
「翔!!お前やっぱスゲェ!!!!よっくあんな高音でんなぁ!!超鳥肌モンだぞ!!」
「あぁ、驚いたよ」
イッチーもコクリ、と頷く。
ホントに、コイツのこの細っこい体の何処から
あんな声が出んだ。
「あつ・・・」
暑いと言いつつ青白い顔をした翔は
額にかかった前髪を払いのけ、眼鏡を外し目頭を押さえた。
酸欠で目まで回ってんのかよ。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
そんな翔を見ていたやなぎんとイッチーは
目をひんむいて停止する。
「・・・?」
ゼーゼー言いながら不思議そうに頭を傾げる翔を
穴が開くほど見つめている。
「翔・・・お前」
「・・・・・・」
「ヒャヒャヒャ!!ビックリしてるビックリしてる!!コイツのギャップ半端ねーだろ!!漫画か!!っつー勢いだろ!!?」
俺の言葉に、二人は無言のままコクコクと頷いた。
それに、ムッとしたように翔は、すぐさま眼鏡をかけ直す。
ようやく息を整えた翔はヨロリ、と立ち上がった。
「もう帰ってもいい?」
今だ青白い顔をしながら小さく呟く。
「なぁ、翔。マジで一緒にバンドやらないか?」
それを引き止めるようにやなぎんが言葉を紡いだ。
ゆっくりと振り向いた翔は
「約束が違う・・・」
と眉を潜める。
「いや、想像以上すぎたんだよお前の歌」
やなぎんばかりか
「お前の歌でやりたい」
と、普段無口で無表情のイッチーまでもがそう口にする。
「そーだよ翔!!やろうぜバンド!!」
「やだってば」
「なんで!!気持ちよくなかったか!!?唄ってて!!ライブハウスでマイク通して思いっきり唄ってみてー!!って思わなかったか!!?」
「・・・・・・」
翔が無言になる。
気持ちよくないハズがねぇ。
だって、長年一緒につるんできたけど
翔のあんなに伸び伸びした張った声聞いたの初めてだ。
「・・・無理」
そう、ぽつりと呟いた翔はそのまま鞄を手にすると
「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、俺には無理だよ。悪いけど他探して」
と言い残し、倉庫から出て行った。
ーー倉庫に残された俺達は
翔の後ろ姿を見送ったあと顔を見合わせる。
「俺、ぜってぇアイツをボーカルにする!!アイツ意外考えらんねー!!」
だぁぁー!!と雄叫びを挙げる俺に
「確かに、翔の歌はレベルが高い。翔が入ってくれればすごいレベルが上がるな」
やなぎんも頷く。
「・・・あのギャップは凄い」
イッチーは、そこかよ。
「でも当の本人があそこまで嫌がってるとなぁ」
「い~や!!俺には分かるね!!ぜってぇアイツ唄ってて気持ちよかったハズだもんね!!」
「・・・また適当なこと言ってんじゃないだろうな」
「ギャハハ!!付き合い13年の亮介くんが言うんだから間違いなーーーし!!」
やなぎんがはぁ、とため息をつく。
「あとは、無理矢理にでも引きずり込んだモン勝ち!!」
「・・・なんかいい考えでもあんのか?」
「まぁまぁまぁ、ちょっと集まりなさいよ君タチ、耳を貸したまえ」
「・・・亮介。ここには俺達しかいないぞ」
「名付けて!!¨とりあえず無理矢理入れたモン勝ち作戦¨!!」
「・・・そのまんまだな」
翔の衝撃的な歌声の余韻を残したまま
俺たちは古い倉庫の中央で身を寄せ合った。
