確かに。
人前で何かをするなんて、翔にとっては有り得ないことだ。
もともと人見知りな翔は知らない人とか苦手だし
幼稚園のお遊戯会とかですら真っ赤になってなんも出来ずに棒立ちで終わるタイプだった。
ましてや人前で歌を唄う、なんてことコイツがするわけない。人の注目を集めるようなことを望むはずがない。
「わかってっけどさぁ!!絶対お前の歌イイと思うんだよ!!な!!?」
「しつこい」
「俺がしつこいのだってお前知ってんだろ~!!!!?」
「まぁまぁまぁ、」
床を踏み鳴らしながら叫ぶ俺と、しかめ面でそれを拒絶する翔の間に、やなぎんが両手を広げながら仲介に入った。
「なぁ、翔。無理にとは言わないからさ」
「・・・・・・」
「一度だけ、セッションしてみないか?」
「・・・セッション?」
翔の声色が、嫌だと言わんばかりに低くなる。
「そう、一回だけ。俺らも翔の歌ちゃんと聞いてみたいしさ。それに、折角バンド組んだのに肝心のボーカルいないんじゃ練習しててもイマイチ、ピンとこないからさ。ボーカル変わりに、な?イチ?」
やなぎんがイッチーに視線を向ければ、イッチーも無言のまま頷く。
「それ以上は強制しないよ」
やなぎんはニッコリと笑うと、宥めるようにそう続けた。
「・・・一回だけ?」
「そう、一回だけ」
しばらく無言のまま考え込んでいた翔は
「・・・わかった。それで諦めてくれるなら」
と、渋々承諾した。
ーーーーそれから数日後。
イッチーの知り合いが所有しているという使われなくなって寂れまくった倉庫に俺らは集まっていた。
「なぁ、イチ。ホントにこんなとこで音出して大丈夫なのか?」
やなぎんが心配そうに倉庫内を見渡しながら小声で楽器をケースから取り出す。
「あぁ。古いけど周りに民家もないし人もこない」
無表情のイッチーはなんてことない風にそう答えた。
「すっげぇ~!!俺こんなとこでギター弾くの初めてだぜ!!」
倉庫の周りには同じように寂れた感じの倉庫が建ち並び、映画なんかでヤバい薬を取り引きされちゃいそうな怪しい雰囲気が漂っている。
古い造りであちこちガタはきてるものの、イッチーが発電機を持ち込んでギターやベースをアンプに繋げて弾くことも出来る。
「これ、どーしたん?」
俺が指指す先にはドラムセット。
どうやって持ち運んだんだっつー話。
イッチーはその質問には答えず、無言のままドラムセットの前に腰を下ろした。
スルーかよ。
「しっかしおしいよなぁ~、来年にはぶっ壊しちまうんだろ?ここ」
久々にアンプに繋げた愛しピンクのギターは
嬉しそうにギュルギュルとイイ音を鳴らす。
「取り壊しさえなければ、スタジオ借りる手間もなく済んだのにな」
やなぎんのベースも低い音を響かせる。
ドラムセットの前に座ったイッチーは
「翔」
と、今だ倉庫の入り口で固まったまま動かない翔に声をかけた。
