翔の流暢な英語が
微かな音になって、部屋に響いた。
ーーーその場にいた俺も、やなぎんも
滅多に表情を変えないイッチーですらも
目を丸くして固まった。
Bメロだけ歌った翔は視線を上げると
「・・・あれ、違ったっけ」
と、少し顔を赤くして、不安げに首を傾げた。
「あ、いや」
やなぎんがハッとした顔で慌てて言葉を紡ぐ。
「驚いて」
イッチーも、黙ったまま何かを考えるかのように
じっと翔を見つめている。
その視線から逃れるように翔は身を小さくした。
小さな声だったけど、翔の声は低く、甘く
部屋の空気を震わせた。
「亮介?」
バッと立ち上がった俺を黒目がちな翔の目が追う。
「翔!!ボーカルやって!!」
俺は、翔の肩を掴んでそう叫んだ。
「は?」
翔が、訝し気な声をあげる。
「俺お前との付き合いなげーけど、初めてお前の歌聞いたぞ!!?」
「だって人前でなんて歌ったことないもん」
「なんで隠してたんだよーーー!!」
「意味わかんないよ」
俺達のやり取りをやなぎんもイッチーも黙って見守っていた。
「な!!やろ~ぜバンド!!」
「やだ」
「なんで!!お前の歌すげーいいと思うぜ!!?」
「今ので何がわるの」
「いーや!!今のだけで十分!!」
今のフレーズだけでも、翔の歌に俺はすごい衝撃を受けていた。
俺らのバンドのボーカルとして求めてたのは
ああいう声だ。
「なぁ!!?やなぎん!!翔ボーカル!!どうよ!!?」
いきなり振られたやなぎんは、今だ驚いた顔をしながらも「あぁ、文句ない」と、笑顔で頷く。
イッチーに視線を向けると
「異議なし」と、同じく首を縦に振った。
「ほら!!皆そう言ってんだし、な!!?やろーぜ翔!!」
勢いよく翔の肩を掴むも
翔はしかめ面でその手を払う。
「やだ、絶対無理」
翔は断固として拒否する。
「なんでぇ!!?」
「お前、何年俺とつるんでんの?」
視線を再び雑誌に戻した翔はため息混じりに息を吐く。
「俺が人前で歌うなんて絶対に有り得ない」
雑誌をめくりながら
きっぱりと言い放った。
