隣の席の室井くん①




翔の流暢な英語が

微かな音になって、部屋に響いた。



ーーーその場にいた俺も、やなぎんも
滅多に表情を変えないイッチーですらも


目を丸くして固まった。



Bメロだけ歌った翔は視線を上げると


「・・・あれ、違ったっけ」


と、少し顔を赤くして、不安げに首を傾げた。



「あ、いや」



やなぎんがハッとした顔で慌てて言葉を紡ぐ。



「驚いて」


イッチーも、黙ったまま何かを考えるかのように
じっと翔を見つめている。

その視線から逃れるように翔は身を小さくした。


小さな声だったけど、翔の声は低く、甘く
部屋の空気を震わせた。



「亮介?」


バッと立ち上がった俺を黒目がちな翔の目が追う。


「翔!!ボーカルやって!!」


俺は、翔の肩を掴んでそう叫んだ。



「は?」



翔が、訝し気な声をあげる。



「俺お前との付き合いなげーけど、初めてお前の歌聞いたぞ!!?」

「だって人前でなんて歌ったことないもん」

「なんで隠してたんだよーーー!!」

「意味わかんないよ」



俺達のやり取りをやなぎんもイッチーも黙って見守っていた。



「な!!やろ~ぜバンド!!」

「やだ」

「なんで!!お前の歌すげーいいと思うぜ!!?」

「今ので何がわるの」

「いーや!!今のだけで十分!!」



今のフレーズだけでも、翔の歌に俺はすごい衝撃を受けていた。

俺らのバンドのボーカルとして求めてたのは
ああいう声だ。



「なぁ!!?やなぎん!!翔ボーカル!!どうよ!!?」



いきなり振られたやなぎんは、今だ驚いた顔をしながらも「あぁ、文句ない」と、笑顔で頷く。


イッチーに視線を向けると
「異議なし」と、同じく首を縦に振った。



「ほら!!皆そう言ってんだし、な!!?やろーぜ翔!!」



勢いよく翔の肩を掴むも
翔はしかめ面でその手を払う。



「やだ、絶対無理」



翔は断固として拒否する。



「なんでぇ!!?」

「お前、何年俺とつるんでんの?」



視線を再び雑誌に戻した翔はため息混じりに息を吐く。



「俺が人前で歌うなんて絶対に有り得ない」



雑誌をめくりながら
きっぱりと言い放った。