隣の席の室井くん①




ーーーそれから


俺達は、暇さえありゃ
やなぎんのプレハブに集まって楽器を弾いた。


ドラムセットはねぇから、やなぎんはドラムスティックを持っての参加だったけど。

その輪の中に入る気のない翔は、いつもその後ろで
ボーっと本を読むか、部屋に散らばる音楽雑誌を見ているかだったけど


それでも俺は、毎回翔をその場に引っ張って行った。

そのうち、ひょっこり気が変わるかもしんねぇし。
どうせやるなら、皆一緒のが楽しいし。

翔もそれを知ってか知らずか、眉間にシワを寄せながらも黙ってついてきていた。



「初めからマイナークラウンのコピーってハードル高くないか?」

「な~に言ってんだよ~!!だっからおもしれぇんじゃ~ん!!」



難しけりゃ難しい程に、やり甲斐があるってもんだ。

バンドの話は一応少しずつ進んでいたけど
肝心のボーカルは今だに見つからず、ボーカル抜きの練習が続いていた。



「も~いっそ俺が歌うかなぁ」

「亮介が?」

「おうよ!!」



愛用のピンクのギターを持ち立ち上がる。

アンプに繋がれていないギターを掻き鳴らしながら
マイナークラウンのUNDERWORLDという曲を口ずさむ。


それを見上げながら



「亮介はなぁ、下手じゃねぇけど声質がちょっと違うよなぁ」



やなぎんが苦笑い気味にそう言う。



「ちぇ~、だよな~」



自慢じゃねぇけど俺だって歌は下手じゃねぇんだ。
だけど俺らが探してるボーカルのイメージの声と違うのは自分でも分かる。

ギターを鳴らしCDの歌詞カードを見ながら歌を口ずさむ。



「ーーーん?なぁ、これなんて読むん?」



英語ばかりの歌詞の中腹を指差し、隣で雑誌に視線を落としていた翔に歌詞カードを見せる。



「umbrella、だよ」



翔がチラリ、と歌詞カードを見て呟く。



「どーいう意味?」

「さぁ」

「傘だよ。中学で習ったろ?」



苦笑い気味にやなぎんが答える。

習ったか~?と言いながら歌詞カードに目を戻すが



「これは?」

「destruction」

「んじゃコレ」

「も~、自分で調べなよ」

「え~!!なんだよ冷てぇな~!!」



俺と翔のやり取りをクスクス笑いながら



「翔は英語得意なのか?」



やなぎんが翔に聞くと
フルフルとコイツは首を横に振る。


そして、



「でも歌なら覚えてる」



と、ぼそり、と返した。



「へぇ、マイナークラウンはほとんど英詞だけど覚えてるのか?」

「うん」



ーー俺も初めて知る事実。

だって、翔は冗談抜きで頭悪い。

数学は足し算レベルから怪しいし
英語に至っちゃ「I am a Pen」とか
言っちゃうレベルだ。



「俺、この歌好き」



翔がめくったページには
Pacifism という曲。

全英詞の、こってこてのハードロック調のギターが印象的な曲だ。



「どんな曲だっけ?」



やなぎんが首を傾げながら歌詞カードを眺めると



「ここのBメロがカッコイイ」



と、翔がゆっくりと
小さくメロディーを口ずさんだ。