ーー8畳程の空間で
野郎4人が座り込んでそれぞれ楽器を手に取る。
俺はギター、やなぎんはベース
ドラマーのイッチーは、さすがにドラムがないのでやなぎんのベースを手にしている。
アンプに繋ぐと流石にうるさいから、そのままで。
それかヘッドフォンを繋いでやるかどっちか。
勢いのある音の変わりに、カシャカシャとギターとベースの音が響く。
「な~、バンド組まね?」
暇だ、という気持ちから
ただなんとなく言った言葉に、やなぎんとイッチーが顔を上げる。
「バンド?」
「そ~!!バンド!!」
俺は立ち上がり二人を見下ろした。
「ギター俺!!ベースやなぎん!!ドラムイッチー!!丁度よく楽器弾けるヤツ揃ってんだしさぁ、バンドやろ~ぜ!!」
「また突然だなぁ」
やなぎんは苦笑いしながらも穏やかに言う。
なんつーか、お父さん。ってカンジだよなぁやなぎんて。
でもやなぎんのベースの腕は、少なくとも俺の周りではピカイチだ。
前に出過ぎない控えめさもありながら、しっかり周りを引っ張るようなベースを弾く。
「イッチーは?」
イッチーを見ると、弾けもしないベースを軽く鳴らしながら
「別に。暇だし」
と少し視線を上げた。
・・・イッチーは、あまり喋んないし、いまいち何考えてんだかわかんねぇけど、その刻むリズムは、本人以上に饒舌だ。
イッチーのドラムとなら絶対やなぎんのベースと合うし、俺のギターもノると思う。
やっべ、わくわくしてきた。
「けど、ボーカルどうすんだ?」
やなぎんが最もらしいことを口にする。
「そんなん後で探せばいーじゃん」
「ホントに勢いのみだなお前は」
呆れながらため息をついたやなぎんは、視線を俺の後ろに向ける。
俺もつられて後ろを向くと、会話に全く参加する気のない翔がキョロキョロと部屋を見回していた。
長い前髪から覗く黒ブチの眼鏡の奥で、翔のデカイ目が少し揺れている。
「すげ~だろ、ここ。やなぎんの兄貴の代から音楽好きの奴らのたまり場だったから、CDとか腐るほどあんだよ」
棚に納まりきらないCDや、今やコレどうやって聴くの?っつーレコードまでがあちこちに積まれている。
翔はそれをキョロキョロと見渡しながら、こくり、と頷いた。
「好きなの見ていいぞ?」
やなぎんの言葉に、翔は視線を少しこっちに向けると
足元のCDの山から一枚抜き出した。
「これ、好き」
一言呟いた翔は、嬉しそうにはにかんで
そのCDを眺める。
「マイナークラウン知ってるのか?」
やなぎんが意外そうな顔で翔を見る。
「亮介もソレ好きだったよな」
「あ~、俺がマイナークラウン初めて聴いたのも翔ん家だぜ?」
中学時代。
ほとんど学校に来なくなった翔は、家に行く度暗い部屋でマイナークラウンを聞きながら一人、ギターを弾いていた。
今じゃ、ギターの腕は俺のが上だけど
あの複雑なコードを弾けるコイツも、ギターの腕はなかなかのモンだと思う。
「なぁ!!翔!!お前も一緒にバンドやろーぜ!!」
立ち上がり、思い立ったように叫ぶ俺に
「やだよ」
あっさりと翔は言いきった。
「んだよ~!!いいだろ!!やろうぜ!!」
「やだよ。大体俺ギターしか弾けないし」
「いーじゃん!!ツインギター!!厚みも出るし!!」
「いやだ」
それ以上、口を開かない翔にブーブー文句を言いながらも俺はふて腐れたように再び床に座る。
「翔もギター弾くのか?」
やなぎんが穏やかに口を開くと、
「・・・少しだけ。今はあんまり弾いてない」
と、視線を下げたまま翔はつぶやく。
「まぁ、翔のギターも俺らは聴いたことないしさ。でも亮介が言うんじゃ腕はあるんだろうし、気が向いたら声かけてよ」
やなぎんのその一言で
その日のバンド話はそれ以上発展はしなかった。
