隣の席の室井くん①




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ーーー高校生に
なったばっかの春。


新しい出会いに、新しい生活


誰もが期待と不安を抱きつつも、自然と顔が綻ぶ季節。


なのに、幼稚園からずっと隣にいるコイツだけは違った。




「おっまえさ~、何その前髪~?キタローかよ!!」

「・・・亮介こそ、なにその頭。うざい、目いたい」



晴れて高校生になり心機一転。
髪を金髪にした俺に向かって、嫌なモンでも見るような目でこの黒髪キタローヘアーの男は言う。



「うざいとかヒドイ!!翔ちゃん!!」

「・・・・キモい」



はぁ、とため息をつく翔は春休みの間に随分伸びた髪の毛で顔のほとんどが隠れ、今まで銀の細いフレームだった眼鏡も、黒い縁取りの目立つ分厚い眼鏡にバージョンアップしてた。


中学でもずっと同じクラスだったわけじゃねぇけど
高校でもクラスは別だ。

けど、俺は暇さえあれば
コイツんとこに足を運ぶ。


「も~、亮介なんでいつもウチのクラスくんの。自分のクラスにいなよ」

「え~!!翔ちゃん冷たい!!」

「亮介のせいで、俺まで無駄に目立つ」



教室にいるクラスメートはそんなミスマッチな風貌の俺達を遠巻きに見てる。


そりゃ~俺みたいな頭真っ金金の男と、いかにも根暗です!!みたいな翔が一緒にいんのはハタから見たら不思議なんだろ~けど。

目立つことが極端に嫌いな翔は、心底嫌そうな顔をしてため息をつくが


そんなん、長い付き合いの亮介くんには通用しねぇのよ。



「まぁまぁ、気にすんな!!俺は気にしねぇ!!」

「亮介がよくても俺が嫌」

「ヒドイ!!!!」


泣きまねしながらそう言えば、翔が口をへの字にしながらため息をまた吐く。


今でこそこんな陰気で根暗な風貌になっちまった翔だけど、昔はそりゃ~可愛かった。
幼稚園の頃なんか俺、最初女の子だと思ってて、危うく禁断の恋しちゃうとこだったしね。

毎日、部屋の片隅で一人で絵本読んでるその子に一生懸命話し掛けて仲良くなろうって頑張っちゃったもんね。


「なまえ、なんていうの?」

「むろい、かける」


・・・あん時の衝撃ったらハンパじゃなかったよね。
俺の初恋返せ!!ってカンジだよね。


けど、不思議とそれから仲良くなって気付けば今までずっと一緒だった。

嫌そうな顔をする翔をいつも引きずり回すのは俺で

でも文句を言いながら結局コイツも俺の隣にいた。


けど、いまでも

教室の片隅で一人、机に向かって本を読んでるコイツを見かけると


中学ん時を思い出す。

あん時ばかりは流石の俺もお手上げだったから。

それに比べればまだマシになったほうだ。
これでも。



「ところでよ~、この前さ西校と北校の奴らですんげぇ上手いベースとドラムと仲良くなったっつったじゃん」

「・・・・・・」

「今日そいつらと会うんだけどお前も来いよ」

「なんで俺もいかなきゃなんないの」

「なんだよ!!ど~せ暇だろ~!!?」

「暇なんて言ってない」

「い~だろ!!マジ、二人とも1コ上なんだけどすんげぇイイ奴らだからさ!!」

「やだ」



翔は極度の人見知りだ。
そんなのは百も承知。


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「よーっす!!」

「亮介遅いぞ」

「悪りー悪りー!!」



放課後。
俺は、北校の1コ上のやなぎんの家に向かった。


やなぎんの家は住宅街からは離れた超田舎で
使われてないプレハブがあるから、楽器仲間なんかはよくたまり場に使ってた場所だ。

ご近所さんも、遥か向こうにチラホラ見えるくらいだからある程度の騒音なら許される。


「よ、イッチー」

「・・・・・・」


同じく1コ上の西校のイッチーは、無表情で無愛想。
頭はオレンジ色のオールバック。(当時)

とてもじゃないけど高校生には見えねぇ。



「あいっかわらず喋んねぇのなぁ!!イッチー!!」

「おい亮介、お前くらいだぞ?コイツをイッチーとか呼べんの」


やなぎんが苦笑い気味にそう言うから、俺は首を傾げる。



「え?なんで?」

「皆怖がって年上ですら敬語だぞコイツに」


やなぎんとイッチーはもともと小学校が一緒だったらしくて、たまたま楽器好きの先輩ん家で再会し
それからよくつるんでるらしい。


「え~、イッチー無愛想だけど怖くないよね~?ね~?イッチー?」

俺の問いに、顔を上げたイッチーは


「・・・・・・それ、誰」


床に座り込んですっかりくつろぎモードの俺
・・・じゃなくて、その後ろ


俺の背後にぼんやり立つ人物を視界に入れながら
ぼそり、と呟いた。


「あぁ、俺のダチ!!翔」


俺から数歩離れた位置で
影のようにボーっと突っ立っていた翔は


「・・・どーも」


と、ぺこり、頭を下げた。



「ギャハハハハ!!気にしねーでやって!!コイツ超人見知りだから!!」

「・・・いたっ、ちょっと・・・亮介」


バンバンと叩かれた肩を押さえながらヨロリよろめく翔は不機嫌そうに俺を睨んだ。



「俺、柳。よろしくな」


にっこりと優しげな笑みを浮かべたやなぎんは
本当に1コ上かと思うくらい落ち着いてるし大人びている。


髭面でイカツイ顔のくせに笑うとなくなる目はどこか人当たり良さそうにも見える。

そんなやなぎんに少し安堵したのか翔も硬直してた体の緊張を少し抜いた。



「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」



イッチーは、そんな翔を凝視したままじっと動かない。

そして凝視されたこのモヤシっ子は再び硬直したまま
動かなくなった。



「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「イッチ~!んな睨まんでやって~ウチの翔ちゃん怯えてるから」

「・・・いや、座ればいいのに、と、思って」



さっきからずっとボーっと突っ立ったままの翔にそう言えば



「・・・・・・」


こくり、と頷いて
翔は部屋の端っこにちょこんと腰を降ろした。




まさに


無愛想VS人見知り


仁義なき戦いだなコリャ。