隣の席の室井くん①





          * * *



ーーーーーー
ーーー・・・


みーーーんみんみんみん

みーーーんみんみん




「相沢氏」

「なにかね?日吉チャン」




みーーーんみんみんみん





「一つ聞いてもいいかい?」

「どうぞどうぞ、遠慮なく」





みーーーんみんみん





「何故、君はここにいるのか」

「愛しのさっちゃんが地区大会予選に向けて猛練習中だっつーから待ち伏せを」


「・・・・・・」

「マイフレンド室井はバイトのためそそくさと帰宅しちまうしよ~」





そう、あんないいマンションに住んでるくせに
実は室井くんはバイトをしているらしい。

確か近所の小さなCDショップだと言っていた。

果たして室井くんに接客なんて可能なのか非常に気になる所だけれども。




「なら帰り給えよ」

「暇なんだよ~!!冷てぇこと言わずに構ってよ!!日吉チャン!!」




みんみんみんみん、蝉がけたたましく鳴く放課後。


ほとんどの生徒が下校した教室に
何故か、アタシと相沢くん。

平凡女子に金髪男子in教室再び、だ。




「時に日吉チャン」

「なんだね相沢氏」

「日吉チャンは何をしてんの?」




本人不在の室井くんの席に座った相沢くんは、今日も目が痛くなるほどの金髪である。

いつもセットのように首にかけられているヘッドフォンからは、ドンドンと微かに音が漏れている。

耳元のピアスも相変わらずキラキラしている。




「見てわからないかね」

「なんとなくね~予測はつきますね~」




調子をつけて喋る相沢くんを一瞥し、アタシは再び机に向かう。


数学の課題をすっかり忘れきっていたアタシは、
手厳しい数学教師によって更なる課題を追加されてしまい只今絶賛課題取り組み中なのだ。



微分だ積分だ
よくわからない記号に数字。


大体、なんで数学のくせにアルファベットが出現してくるのか。こんなものが将来一体なんの役に立つというのか。



「あーーー!!もう無理無理!!わかんない!!」



バンッと机に両手をついて叫べば



「ヒャヒャヒャ!!まだ数分も経ってねぇよ日吉チャン!!」



蝉の声に負けず劣らず耳につく相沢くんの笑い声。

・・・室井くんの親友でもなんでもなかったら
撲殺していたかもしれない。



「明日で学校も終わりだっていうのになんでアタシはこんなところで数式と睨めっこしなきゃならんのだ!!」

「時に日吉チャン」

「なにさ!!相沢氏!!」




憤慨しながら机に突っ伏したアタシを覗き込むようにしてニヤニヤと顔を歪める。



「一昨日、翔ん家行ったんだって?」



ニヤァっと笑みを浮かべる相沢くんに、アタシは身を後退させる。



「・・・どこまでいったん?」

「相沢氏」

「なんだね?さぁさぁ遠慮せずにこの金髪のオニイサンに話してごらん」

「・・・ウヒャウヒャ五月蝿い蝉に、殺虫剤って効くと思う?」

「・・・殺傷能力はないかもしれないが確実に手傷を負わせることはできそうだね」

「なら黙ろうか」




今ならシューっと一吹きで奴を抹消してしまうかもしれない。



「ヒャヒャヒャ!!こえー!!日吉チャンこえー!!!!」




・・・誰か殺虫剤ぷりーず