「日吉さん、笑いすぎ」
「あはは!ごめんごめん!!分かった次のページに行くから!!」
取り上げられそうになったアルバムを死守しながら
アタシは笑いを堪えて次のページへと進む。
次のページは室井くん一人の写真ではなくて、何人かで映った幼稚園での写真だった。
なんだかどの写真も半ベソをかいてるような顔をしている。
「泣き虫だったの俺」
苦笑いで室井くんがソファーに身を沈めた。
「どの写真も、みんな泣きベソでしょ?」
あはは、と室井くんが笑う。
「でも可愛いね」
泣きベソですらものすごく可愛いミニ室井くんは
この頃から人見知りなのか、いつも端っこの少し離れた場所に申し訳なさそうに映っている。
「俺、すんごい泣き虫でいっつも泣いてたから女みたい~ってからかわれてて」
「そうなんだ?」
なんか、嬉しいな。
室井くんの子供の頃の話とか。
「相沢くんは?」
「亮介はね~次のページあたりから出てくるよ」
アタシはアルバムに手をかけ次のページをめくった。
「・・・あ、コレだ」
ページを開いた途端に目に飛び込んできたのは
完全に泣いている室井くんの横で人懐っこそうな可愛い笑顔を振り撒いている男の子。
「亮介変わんないよね」
室井くんの言う通り、今とあまり変わらない相沢くんは、それこそ今みたいに金髪ではないものの
完璧に相沢くんの面影がある。
「うわ~、ヤンチャそう」
泣きベソの室井くんに対して、相沢くんはどの写真でも泥まみれに汚れてて、悪ガキみたいに歯を見せて笑っている。
「この頃から仲いいの?」
ソファーに身を沈めたままジュースを啜る室井くんは
「ん~」と頭を傾げた。
「あれ?違うの?」
「仲いいっていうより付き纏われてたカンジ」
「あはは、今と変わりないじゃん」
「俺、その頃から人見知りで友達いなかったから、いつも一人で絵本読んだり積み木で遊んだりしてるのが好きだったし」
・・・それも今と変わらないのね。
「亮介は友達も多くて、いつも友達とサッカーしたり鬼ごっこしたりしてたけどね」
相沢くんらしいなぁ。
昔から正反対なのね、君タチは。
クスクス笑いながらアタシは室井くんの話に耳を傾ける。
「でも、どの写真も相沢くんと映ってるね」
開いたページには
そんな正反対の二人が必ず一緒に映っている。
「なんかね、うるさいの。一緒に遊ぼう遊ぼうってついて回ってくるの」
「相沢くんが?」
「昔からうるさいのアイツ」
ゆっくりと、いつもの口調でそんなことを言いながらも、室井くんの表情はどこか嬉しそう。
「サッカーしてればいいのにね、何が楽しいのか¨じゃあ俺もやる¨って、なぜか俺の横で興味ない絵本とか開くの」
「へーぇ」
「無視しても無視しても気付くと横にいるからいつの間にか当たり前になっちゃった」
・・・やはりドMか、ヤツは。
隣のページになると、泣きベソだった室井くんも相沢くんと一緒に笑ってる写真が増えていた。
「仲いいんだねぇ」
「腐れ縁だよ」
可愛い笑顔を振り撒く二人の男の子に、思わずアタシも笑みが洩れた。
ページが進むにつれて、幼稚園から小学生へと
室井くんたちも大きくなっていった。
しかし、どの年齢の室井くんも犯罪級のぷりちーさだ。そして、その何処かしらに必ず相沢くんが一緒に映っている。
「・・・ん?」
ページを進めていく手をふと、止めた。
「どうかした?」
室井くんが不思議そうにアタシを見る。
「いや、んーん」
曖昧に首を振り
アタシは次のページをめくった。
次のページは
どうやら中学生になったらしい室井くんが
初々しい学ラン姿で映っている。
今より幼い室井くんは
もちろん、幼少期と変わらずの美少年ぶりなんだけど
学ランにもトキメクんだけど・・・
なんだろう、
なんか違和感。
アタシは、写真に目を向けながらナイ頭を巡らせる。
ぺらり、とページをめくると
「あ、眼鏡」
今のような眼鏡をした室井くんが、無表情で映っている写真が真っ先に目に飛び込んできた。
「あぁ、ソレ中2くらいだよ。その頃から視力がすんごい落ちちゃって眼鏡になったの」
今みたいに前髪で顔は隠れていないものの
眼鏡姿の室井くんは
幼いながらに、見覚えのある姿になってきている。
けど、違和感。
なんだろうこの違和感。
アタシが頭を捻っていると
ーーーブルルと、携帯のバイブ音が部屋に響く。
「あ、ごめん」
と、マナーモードにしていたらしい携帯を手にした室井くんが、ソファーからゆっくり身を起こした。
「ちょっと出てくるね」
ニヘラ、と笑って
携帯片手に彼はリビングから出て行った。
