「むむむ、室井くん!!」
「どうしたの?」
「ま、前髪・・・!!」
あ~、と自分のちょんまげを指で触りながら
「邪魔だったから」
へへへ、と眼鏡越しに呑気に笑う。
邪魔って!!やっぱり邪魔なんじゃん!!
「なら、切ればいいのに」
「ん~、顔見られるのあんまり好きじゃないんだよなぁ」
苦笑いしながらソファーへと腰を下ろした。
「それに、バンドやってるのバレちゃうし」
はい、とアタシの膝に赤い表紙のアルバムを乗せる。
眼鏡をしているとはいえ、前髪がなくなった室井くんは当たり前だけど普段よりも顔もその表情もよく見えて、
ただでさえ緊張する状況だというのに
更に激しい動悸に見舞われる。
室井くんの顔は、心臓に悪い。
女の子も顔負けの綺麗なその顔は
どうしたって人目をつくだろうし
見惚れない人なんかいないんじゃ・・・ってくらい
まるで作り物みたいに、綺麗すぎる顔立ちをしている。
いくら人見知りで
極度の緊張しいとは言え
非常に勿体ない。
「そんなに嫌なの?人に見られるの」
「うん、いや」
即答だ。
こりゃ重症だ。
「そっか~」
まぁ、本人がそういうなら仕方ないだろうし
何よりも彼の素顔はアタシの心臓にも悪い。
「まぁ、アタシは眼鏡で前髪の室井くんの方が安心するけどね」
と、思わず口から出る。
「え?」
それに室井くんが少し驚いたような顔で
アタシを見た。
「え?」
アタシも同じく聞き返す。
あれ?なんか変なこと言ってしまっただろうか。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
しばらくジーっとアタシの顔を見つめる室井くんに心拍数が上がる。
停止して10秒程の間を開けて
室井くんはふにゃり、と表情を崩すと
「えへへ」
と、笑った。
よくわからずアタシも
「えへへ」
と、笑う。
な、なんだ、なんだ。なんなんだ。
やっぱりわからん。
室井氏の考えが全く読めん!!
とりあえず、膝の上のアルバムで少しでも彼を知ろう!!とアタシはそれを開く。
赤い、それほど厚くないアルバムの表紙を開くと
翔 4歳
と書かれた紙が貼られたページにいきなりいく。
何枚か写真の貼られたページに目を落とすと
「か・・・!!かわっ!!!!」
アタシは思わず、片手で鼻を押さえた。
何コレ!!ちょっと!!何コレ!!
超かわいいんですKEDO!!!!
写真の中の幼い室井くんは恐らく砂場と見られる場所で、赤いスコップ片手にニッコリと笑っている。
今みたいに前髪で顔を隠すことなく、眼鏡をしていることもないミニ室井くんは
女の子のような大きな目をくりん、と輝かせて
キッズモデルばりのスマイルを見せている。
「コレ!!コレ室井くん!!?」
アタシが指さす写真を見ながら
「うん」
と、頷く室井くんは不思議そうな顔でアタシを見る。
「・・・っっ!!衝撃的な可愛さなんですけど!!」
「あはは、普通だよ」
いやいやいや!!
これ普通とか言っちゃったら世の中の大半以上の人間は普通以下の下級生物になっちゃうからね。
こりゃ、間違ってもアタシの幼少期なんて見せられたモンじゃない。
恐ろしや・・・
そのページに貼られている室井くんは、どれもこれもぷりちーなスマイルを見せながら、鼻血モンの可愛さを振り撒いていた。
「女の子みたいだねぇ」
なんの気ナシに呟いてしまったその言葉に
「ん~」
と、不満そうに唸った室井くんは
「次のページとか最悪だよ」
と、少しぶっきらぼうに呟き返した。
頭を傾げながら次のページを開くと
「ーーーっぶっっ!!」
思わず吹き出してしまった。
「いい迷惑だよね」
不満そうな顔のまま
室井くんは空になったアタシのグラスを持って
ソファーから立ち上がる。
そんな室井くんを横目にしながらも、アタシは口元を押さえその写真たちを凝視する。
「そんな笑うなら見せない~」
グラスにジュースを入れ戻ってきた室井くんが
口を尖らせながら再びソファーに座る。
「・・・ちが・・・ちがくて」
くくく・・・と笑いを堪えながらも、ありがとう、とグラスを受け取った。
「だ・・・だって・・・コレ、室井くん?」
「・・・そーだよ」
「かわっ・・・可愛すぎる・・・」
そのページに映ってる室井くんは、
女の子用の洋服を着せられて、半ベソをかいている写真ばかりだった。
真っ赤なワンピースを着ているモノや
大きなリボンをつけてるヤツ
ドレスみたいなのまである。
「・・・俺の趣味じゃないよ?」
「・・・くくく・・・あ、そうなの・・・?」
むーーーと口を尖らせながら室井くんは拗ねた口調で
視線を逸らす。
もしかして、お母様の趣味だろうか。
あまりにも室井くんが可愛くて思わず着せたくなったのかしら。
いや~、でも分かる。分かるよ、母上。
これは着せたくなるよ。
どの写真も泣きベソをかいてはいるけれど、犯罪級の可愛さだ。
むしろそこらの女の子なんかより数段似合っちゃってる。
