「びっくりする程なんにもないね」
ぽかーんとしながら部屋を見渡す。
本当に彼はここで生活をしてるのかってくらいにガランとしている。
「これ以上必要ないから」
どこまでもマイペースな室井くんはなんでもないことのようにそう言うけど
「淋しくない?」
アタシの家なんかあちこちゴチャゴチャと
所狭しとばかりに物に溢れてるし、アタシの部屋に至っては見せられたもんじゃないですけど。
「ん~、あんまり淋しいとかわかんないからなぁ」
その室井くんの言葉に、思わずグラスに伸ばしかけた手を止め顔を上げる。
「ん?」
「あ、ううん、なんでもないよ」
慌てて首を振ってグラスを手にした。
ヒンヤリとした冷たさが手の平に伝わるのと同時に
なんだか、
胸の奥にもなにかが広がった。
「あ、ギターとかはないの?」
話題を変えるように室井くんに再び顔を向ける。
「楽器はね、奥の部屋に置いてあるよ」
「へ~、いつもそこで楽器弾いてるの?」
「ん~たまにしか弾かないけど、弾くときはいつもそこかな」
「ご近所さんとかに言われないの?」
「あの部屋だけ防音だから大丈夫」
ぼ、防音・・・。
・・・やっぱり室井くんはどこかのお坊ちゃまに違いない!!!!
「し、写真!写真みせて!!」
そうだ!!そもそもそれが目的でお宅訪問したんだった。
「あ、そっか。ちょっと待ってて」
カタン、とグラスをテーブルに置くとゆっくり立ち上がった室井くんはリビングから出て行った。
誰もいなくなったリビングでポツン、と一人。
「・・・ふぅ」
思わずため息をつく。
なんか、イロイロとビックリしすぎて一瞬忘れてたけど、よくよく考えたらこの家にアタシと室井くん
二人きり・・・
・・・それはそれで非常に緊張を強いられるんですけれども。
緊張からか、喉が渇く。
気づけばグラスの中はほぼ空っぽになっていた。
・・・しかし
この部屋に一人で住んでるって。
いくらなんだって驚きの事実じゃなかろうか。
いつから一人暮らししてるんだろう。
高校生とはいえまだまだ世間的には子供。
そんな子供にこんな立派なマンションを与えるって・・・
どんな家庭環境なんだろうか。
・・・アタシ、室井くんのことなんにも知らないなぁ。
まぁ、まだクラスが一緒になって数ヶ月。
付き合ってからなんて一週間足らず。
知らなくて当たり前なんだろうけど
なんだかなぁ。
一人、ぶつぶつと呟いていると
「おまたせ~」
相も変わらずな室井くんがリビングに再登場した。
アタシは思わず、思考を停止して室井くんを凝視した。
「ん?」
頭を傾げる室井くんの顔には、いつも大部分を隠している前髪がない。
この前、スタジオで見た
ちょんまげバージョンになっての再登場だった。
