一人想像しながらニヤニヤしているアタシを横目に
「あるよ?」
室井くんが、主語のない言葉を落とす。
「え?何が?」
「写真」
「何の?」
「幼稚園の頃の」
「うそっ!!見たい!!」
「今度、日吉さんのも見せてくれるなら」
ニッコリと微笑む室井くんは楽しそう。
前髪と眼鏡で目元が見えないのが惜しいけれど
「アタシの幼少期なんて、見てもなんも楽しくないよ?」
「俺のも面白くないよ?大体どこ開いても亮介出てくるし」
・・・あぁね。
「でも見たい!!」
「じゃあ来る?」
「え?何処に?」
キョトンとすれば、室井くんが更に穏やかに笑みを浮かべながら
「今から、家」
そう言った。
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・・・とんだ急展開だ。
この、のほほんマイペース室井くんは
どこまでもマイペース。
「・・・ほぁ~・・・いいとこ住んでるねぇ」
アタシの下車駅から更に2駅先。
街中の割には静かな住宅街の中にあるマンションの前で、アタシはアホ丸出しな顔で綺麗なオレンジのレンガ造りの立派なマンションを見上げた。
「ね~無駄だよね」
軽い調子で隣で呟いたかと思うと
「行こう」
と、ニッコリ口元を緩ませた。
・・・読めない。
読めないぜ室井氏。
仮にも、彼氏のお宅にお邪魔するんだもの緊張するではないか。
しかも、手ぶらでいきなり訪問とかお家の方になんて思われることか・・・
立派な入口の前で・・・恐らくオートロックというやつなのか、慣れた手つきでボタンを押す室井くん。
目の前の扉が音もなく開いた。
あぁ・・・どうしたらいいのか。
ライブハウスに入った時よりも更に上回る緊張感。
「あの・・・やっぱりなんか手土産かなんか・・・」
「え?なんで?」
「なんでって・・・」
いや、ほら。礼儀として一応さ。
いやいや、何も結婚の申し込みに行くわけでもあるまいし必要ないのか・・・?
って!!
結婚とか!!
何考えちゃってるかなアタシは!!
「日吉さん?」
ちらりと見える眼鏡の奥の室井くんの瞳が心配げにアタシを覗く。
「いやいやいや!!なんでもナイっす!!」
・・・OH NO・・・
ますます、おかしい子だよこれじゃぁ・・・
