「ったく、無駄に煩いわねアイツは」
ふと、正面のさっちゃんを見ると眉間に皺を寄せながら相沢くんを睨むように見ている。
「さっちゃん、もしかして相沢くんの事苦手?」
アタシがそう聞くと、チラリとその視線をこちらに向けた。
「苦手も何も、ああいうタイプ嫌いよ。鬱陶しい」
この前の帰り道、何かあったんだろうか・・・。
確か、スタジオにいた時はここまでじゃなかったはず。
「んでんで?二人は何話してたの?」
と横の金髪の彼が、肩肘つきながら人懐っこい笑顔を見せこちらに向けてくる。
相沢くんのその言葉にそっぽを向いていたさっちゃんの眉間に再び皺が寄った。
「別に何だっていいじゃない」
「何だってよくねぇんだな~コレが。気になるところじゃ~ん?俺らの仲じゃ~んさっちゃん!!」
「馴れ馴れしく呼んでんじゃないわよ」
「だって、好きな子の事ならなんでも知りたいじゃん!!?交遊深めてぇじゃん!!」
「・・・ホント、うっざ」
ちょっと待て、なんだこの会話、
え?
・・・もしかして・・・もしかしなくても
アタシは、目の前のしかめ面のさっちゃんと
やたらニコニコ顔の相沢くんを見比べる。
「あ、相沢くんて、さっちゃんの事好きなの?」
思わず尋ねたアタシに相沢くんが
「ん?好き好き!!既にこの前告って玉砕済みだけどね!!!」
と、何がそんなにおかしいのかヒャヒャヒャと笑い声を上げて答えた。
「んえぇぇぇぇ!!!!?」
アタシの雄叫びが教室中に響き渡ってしまい
クラス中の注目を一斉に浴びてしまっただけでなく
般若のようなさっちゃんに死ぬ程睨まれ、金髪には指をさしてまで笑われ
しまいには
眠りを妨げられた室井くんがむくり、と顔をあげアタシに少し困った顔をした。
・・・あぁ、ごめんなさい
で、でもでも!!だって!!
びっくりするじゃんか!!
一体、いつの間にやらそんなことになっていたのか。
あのスタジオに行った帰り道に、彼らの間に何が起こったのだろうか。
「もー!!アンタうざい!!自分のクラスに帰れ!!」
「え~?ひどい~?さっちゃんが意地悪ゆう~」
「その金髪、マジで血で染め上げてあげようか?」
「ヒャヒャヒャ!!いーね!!俺、さっちゃんのそういうトコ好き!!」
怯むどころか、ますます笑い声を発する相沢くんに
さっちゃんのボルテージも上がっていく。
さっちゃんの、刃のような毒舌にもめげない相沢くんは、きっと鉄のハートをお持ちなのであろう。
「もう、ホント煩いアンタ。目障り。耳障り」
「ギャハハ!!ひでーー!!」
なんか・・・
お似合いじゃない?
意外と。
「さっちゃん、あとで詳しく聞かせてね」
「なんのよ」
ギロリと向けられたさっちゃんの視線に耐えられる程アタシのハートは頑丈じゃないので、とりあえず視線を逸らしてみる。
そんな騒ぎの中でも室井くんは、長い前髪を垂れ下げて分厚い眼鏡で完全ガードしながら未だ夢の中。
言い争う賑やかな二人の声が、予鈴の鐘の音に飲み込まれていった。
