隣の席の室井くん①



          * * *




室井くんたちのバンドの練習にお邪魔して数日。


・・・思いがけない初ちゅーから3日。

あの日、そのまま駅に向かい電車を降りるまで(室井くん家はウチの更に2駅先)室井くんは何も変わった様子もなく相変わらずニコニコとしていて、


次の日からも普通に


「日吉さんおはよ~」


と、隣の席でそのマイペースっぷりを発揮しつつヒッソリと気配を消している。

あれがファーストキスなアタシにとっては大事件だというのに!!・・・室井くんはなんとも普段通りである。


そんな室井くんに拍子抜けしながらも気付けば夏休みまであと3日。クラス中が浮足立った空気の中、思いがけない報告が暑さでやる気をなくす教室内でアタシを待っていた。



「え・・・?別れた!?」


机に両手をつき、驚きの声を上げるアタシに
目の前のさっちゃんは、椅子に踏ん反り返ったまま


「そ、別れた」


と、なんでもないことのように言う。



「え!?だってこの前までラブラブだったじゃんよ!」

「別にラブラブじゃないわよ」


嘘つけ!車持ちの大学生彼氏が学校までお迎えとかきちゃってたじゃん!!車に乗り込んでチュ♡とかしちゃってたじゃん!!なんか超大人!!って感じだったじゃん!!


「まぁね~最初は、大学生だし大人だしと思って付き合ったんだけど、結局女の方が精神年齢は上なのよ」

「・・・えぇ?どういう意味?」

「どういう意味もなにも、そういう意味よ。つまり私も私で大して好きじゃなかったってこと」


隣の席で本を読んでいる・・・・・・フリをして、お昼寝中の室井くんを、さっちゃんがチラリと見ながら溜め息をついた。


その視線は、なんだかアンニュイだ。


「・・・ま、まさか・・・」


恐る恐る目の前のさっちゃんに視線を向ける。


「なによ」


肘をついたまま、アタシを見るさっちゃん。


「ま・・・まさか、さっちゃん・・・む、室井くんのこと・・・」

「ごめん、絶対ないわ」



・・・いや、何もそんな力入れて言わなくたって。



何やら色々と事情があるらしい。
アタシはつい最近ようやく彼氏が出来て、未だ色んなことにあたふたしてばっかりでそんな難しいこと考える余裕すらない。

まだ、この隣でスヤスヤ寝息を立てる室井くんを見てるだけでアタシはキュンキュンしてしまうのだ。


「いいわね~アンタは幸せそうで」


肩肘つきながら、そういってアタシを眺めるさっちゃんは、やっぱり心なしか寂しそう。


「さっちゃん・・・」

「何よ、その哀れんだ目」

「あ、哀れんでなんかおりませんよ!」

「同情するくらいなら、金よこせ」


・・・なんか、大昔前に流行ったドラマの台詞みたいなことをサラッと言いながら怖い笑みを浮かべてますケド。


「あ~あ、貰ったモン全部リサイクルショップにでも持ってたら金になるかしら」


ちゃっかりしてんなぁ、オイ。
流石、ただでは転ばない女松坂 咲智だ。


「なになになに!?なんの話~?」


アタシとさっちゃんの間にひょっこりと顔を出したのは、今日も相変わらずキラキラジャラジャラの人物。

世話しなく、アタシとさっちゃんを机のフチ部分からピョコリと頭を出し、見比べたかと思うと


「あんれ?翔寝てんの?」

その向こう側で机に突っ伏して眠る室井くんを見つけると、当たり前のように田中くんの席に座った。


「相沢くん、何当たり前のように人のクラスにきて当たり前のように席に座っちゃってるのかな」

「まぁまぁ日吉チャン、堅いコト言わねーの!」


ヒャーッッと、さ○まサンもびっくりな引き笑いをしながらも、寝ている室井くん前に立てられた本を取り上げ


「おーい翔ちゃ~ん」


と、室井くんの頭をペシペシ叩いた。
再びむくり、と顔を上げた室井くんは珍しく非常に不機嫌そうな顔をして「亮介・・・うざい」と呟いた。


おぉ・・・ダーク室井。
主に対相沢の時に見られる室井くんだ。