隣の席の室井くん①



なんとなく、その向日葵を二人で並んで眺めていた。
そういえば向日葵がキッカケだったりするんだよな。


あの日直の日。
室井くんが日誌に書いたあの一言。

誰も知らないはずだったのに、誰にもバレたくないから コソコソやっていたのに、気付いてくれていたことが嬉しかったのは、なんでなんだろうな。


「日吉さんって向日葵に似てるよね」


隣で室井くんが呟く。


「はは、日直の時も室井くんそう言ってくれてたね」


向日葵なんてガラじゃないのは自分でよく分かってるけど、向日葵はアタシの1番好きな花。


「うん、日吉さんの笑った顔って向日葵っぽい」


もう、恥ずかしげもなくそんなことを言っちゃわないで欲しい。


「も~・・・室井くんさぁ、ソレわざと?」


顔が熱いのは、きっと、夏の気温のせいだけじゃない。


「?なにが?」


相変わらずニコニコと眼鏡の奥で笑う彼は、なんの悪気も照れもない様子。


「すんごい照れる」


あまりにもサラッと言うもんだから、どう反応したらいいのかわからないよ。免疫ないんだよ。

そんなアタシを見ながら


「俺ね、日吉さんが花壇になんか植えてるの春に見たって言ったでしょ?」


ゆっくりと、唄うようなテンポで話し出す。
決して声量のある話し方ではない室井くんの声は、高すぎず、低すぎず、とても心地いい。


この声が音に乗ると、あんなにも高く、あんなにも低く、伸びやかに響き渡るんだから凄い。



「なにしてんだろう、あの人って思ったの最初」


アハハと笑いながら室井くんは楽しそうに体を揺らす。


確かに、あの日のアタシは恐らく挙動不審だったであろう。

クラス替えしたばかりの4月。
楽だと聞いていたから、なんとなく手を挙げたら決まってしまった緑化委員。

緑化委員なんて名ばかりで、唯一夏休みに1日だけ草むしりがある以外活動はほぼないと聞いていたんだけど、窓から見える中庭の殺風景な花壇が目に止まって


なんとなく、気になって
なんとなく、種を植えた。


もちろん、先生には確認を取って植えたから
なにもコソコソする必要なんてどこにもなかったんだけど…

けど、花を植える、なんてそんな乙女チックなキャラじゃないことは自分が1番分かっていて、なんとなく恥ずかしくて、さっちゃんにすら秘密にしていた位だ。


「そのうち、そこから芽が出てくるでしょ?そしたらなんになるんだろぅ~って気になりだしたのね」


のんびりとした口調で室井くんは続ける。


「それと同時に、多分、日吉さんのことも気になりだしたのかも?」

「え、なにその半疑問形」


アハハ、と笑う。
アタシも笑った。


「その芽がどんどん伸びてって、段々蕾になってってあ、咲いた、と思ったら向日葵だったよ」


室井くんの視線が再び、塀の向こうの向日葵に向かう。


「俺の中でね、向日葵の色は日吉さんの色なんだよ」


そして、またそんなコトを恥ずかしげもなく言ってのける。