隣の席の室井くん①



ハァハァと息荒く登場した室井くんは、
汗を掻くどころか若干青白い顔をしてフラフラと隣の席に着席した。



「だ、大丈夫?」

「…へへ、だいじょ~ぶ」




…大丈夫に見えないんですけども。


まるで死人のような青白い顔をして椅子に座ると



「ごめんね、日直の仕事一人でやらせちゃって」



と、すまなそうに頭を傾げる。

相変わらずむさ苦しい髪型だ。
前見えてんのかな。それ。



「いや、全然!まだ何にも書けてないしね!」



ついさっきまで失踪室井に悪態ついていたんだけれども、そんな青白い顔で駆けつけてきた彼に文句など言えやしない。

とりあえず真っ白な日誌を見せてアタシは苦笑いを浮かべた。



「もうね~今日の出来事なんて何にも思いつかない訳ですよ。今日の記憶なんて、暑かったこと以外何にも覚えてないんだから!」



ほんとに。今日それしか言ってない気がする。
ブツブツと呟くアタシに、ハハと軽く笑った室井くんは



「貸して」



と、アタシの手から日誌をするり、と抜き取ると机にノートを広げ躊躇うことなくペンを走らせる。

それに少し驚きながらもそんな彼を見遣る。


…意外と綺麗な字を書くのね室井くん。

あ、しかも手が綺麗。


女のアタシなんかよりも数倍白いその指は細くて長い。

でも、ちゃんと男の子の手なんだなぁ、
節々がゴツゴツしてる。

思わず凝視していたアタシの視線に気付いた室井くんは



「緊張…するんだけど…」



と、ちょっと困ったように頭を傾げて口元に笑みを浮かべた。



頭を傾げるのは彼の癖なんだろうか。


随分と可愛らしい癖だなオィ。