隣の席の室井くん①




「よっしゃっっ!!!!」


ギターを掲げたままガッツポーズをする相沢くんと


「お前はホントに可愛いヤツだなぁ」


と、室井くんの頭を撫でるやなぎん。


「でもフレーズは亮介が考えてね、難しいのはダメ」


と、頷く室井くん。



・・・いいんですか。そんなんで。

すると、ずっと沈黙を貫いていたイッチーが背後から


「サビにも入れたらいいと思う」


と、ボソリと呟いた。


それに振り返った三人は


「そーしようショウ!!」

「ヤダ」

「確かにサビもあったらカッコイイな」

「これ以上は無理」

「やる前から無理とか、情けないぞ父さんは!!」

「いつから亮介が俺の父さんになったの」

「まぁまぁまぁまぁ」



なんかもう、このバンドやる気あんだかないんだか・・・。


「・・・変なバンド」


さっちゃんの呟きにアタシも思わず頷いてしまった。



結局そんなこんなで、この日のSnakeFootツアーはお開きになったのであった。




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外に出ると、真夏と言えど辺りはうっすらと暗くなっているような時間で


「ショウ!!ちゃーんと日吉チャン送ってくんだぞ~!!」


と叫ぶ相沢くんに

眼鏡を外し、再びちょんまげになった室井くん(ある意味変装らしい)は、頷く。



「私はいいわよ、ここから家近いし」

「ノンノン、こんな美人さん一人で帰す程、男相沢腐ってねーのよ!」


どうやらさっちゃんは、相沢くんが送ってくれるらしい。なかなか気が利くじゃないの相沢くん。


「日吉さん」


ふと、やなぎんに呼び止められ振り向くと
ベースを背負ったやなぎんがジェントルマンな笑みを浮かべている。


「今日はありがとな」


強面な顔を優しく崩しながら、アタシなんかに向かってそんなことを言い出す。


「いやいや!!アタシなんて邪魔しちゃったくらいしか!!」


両手をぶん回しながら恐縮するアタシに


「いや、日吉さん居てくれるとやりやすい」


やなぎんは、入口を出たところで早速眼鏡を装着し、ちょんまげを外す室井くんに、チラリと視線を送りながら小声でそう言う。


「やりやすい?」

「うん」



頷くやなぎんは苦笑い。


「もともとショウは無理矢理バンドに引きずり込んだようなモンだったから、イマイチやる気がなくて困ってんだ」


ポリポリと、こめかみをかきながらやなぎんは続けた。


「あの通りアイツはマイペースだから全然言う通りにしてくんないんだけど、日吉さんが言えば一発だ」

「いやいや・・・そんな」


そこまで影響力ないと思いますけど・・・


「なぁ、イチ?」


やなぎんが、ふと後ろにいたイッチーに振ると
ゆっくり顔を上げたイッチーは、眼鏡を人差し指で持ち上げながら


「今日も、ショウの歌は良かった」


と、ゆっくり頷いた。


・・・このバンドの眼鏡っ子は、揃いも揃ってマイペースなのだろうか。