「室井くん」
一通り挨拶を交わし、さっちゃんが自己紹介をした後、それぞれが散り散りに狭い室内の中で自分の楽器をいじったり雑談をし始めた中
アタシはスコアを眺めている室井くんにそろ~っと近付き話し掛ける。
「ん?なぁに?」
床の上で体操座りをしながら視線を上げた室井くんにキュンとしたものの、気を取り直して、
「あの~、え~と、大丈夫なの?」
「何が?」
得意の頭を傾げるポーズをしながらスコアを床に置くと、室井くんは相変わらずのゆったりとした雰囲気を纏いながらニコニコと笑う。
「いや、アタシたち来ちゃって本当に大丈夫だったのかなって」
部屋を見渡せば一向に練習を始める様子もなく、それぞれが寛いでいるように見える。
「ちょっとアンタ!さっきからホントうるさい!私のことはいいから練習しなさいよ!」
「えーつれなーい!さっちゃんつれなーい!嫌いじゃねぇけど!!」
「馴れ馴れしいわね!さっちゃんとか呼ばないで!」
…なんだかんだで
さっちゃんのが馴染んでる気もするけど。
相沢くんと意気投合してるみたいだけど。
「あのドラムの人、もしかして怒ってる?」
「イッチー?」
さっきからドラムの前でスティックを握ったまま微動だにしないイッチーは、寸分狂わぬ無表情のままずっとあそこにいる。
・・・はっきり言って、恐すぎる。
「あはは、気にしないでいーよ。イッチーは元からあんなかんじ」
笑いながら床に落ちたスコアを拾い上げ、再びそれを手にする。
真っ黒なスコア。
アタシみたいな素人には最早、謎の記号でしかないそれを、室井くんはゆっくりと目で追う。
「眼鏡のまんまで大丈夫なの?バレちゃわない?」
「大丈夫、ここ入る時は外してたし髪も上げてたから」
そんなもんですか?
意外とバレないもんなのね。
「ゴメンね、暇だよね」
「いやいやいや!!そんなことないよ!!」
申し訳なさそうな表情の室井くんに慌てて頭を振る。
「でも俺は嬉しい」
「え?」
「日吉さんと一緒にいれるから」
…あぁ、神様。鼻血が出そうです。
室井くんて、本当謎だ。普段あんまり喋らないし、口を開いても基本のほーん、ほわーんとしてるくせに、天然なのかなんなのか。こうやってペロっと爆弾を落とす。
彼氏といえどまだお付き合い2日目のアタシには、到底慣れそうにない。
床に座りながらニコニコと見つめ合うアタシたちの間を、ドン、とピンク色の物体が遮断する。
「ハイハーイ!!そこの初々しいカップル!!初々してないで練習するよ~!!」
ピンクの派手なギターを片手に、何が楽しいのかギャハハと笑い声を上げる相沢くんが立ちはだかった。
「亮介ウザイ」
室井くんは、眉間にシワを寄せながらもゆっくりと立ち上がる。
室井くん、あなた相沢くんには結構毒吐くよね。
相沢くんのその言葉を合図に、リラックスモードだった彼らがそれぞれ楽器を手にし前方に集まる。
黒いベースを手にしたやなぎんが
「二人はそこの椅子にでも座ってて」
と、ニッコリ笑顔で促してくれる。
ジェントルマンだ。彼はまさにジェントルマンだ。ちったぁ見習え金髪よ。
「日吉さん」
中央のマイクスタンドの前に立つ室井くんが、手招きをしながらアタシを呼ぶ。
