「とはいえ、彼女になったのはいいけど、一体何をどうしたら」
憎たらしいほどに突き抜ける青空を仰ぎながら食べ終えたお弁当箱を閉じる。
夏休み目前の季節の日差しは、容赦なくヤワな乙女の肌を突き刺す。
「室井ねぇ・・・絶対女経験ないだろって思ってたケドこれはわかんないわよ?」
さっちゃんのニヤついた表情を横目で見ながら
「え?ど…どういう意味よ、さっちゃん」
と、問う。
「ただの根暗の不思議っ子かと思いきや、実はイケメンボーカリストって肩書きでしょ?モテないわけないじゃない」
「え~・・・でも、メンバー以外は¨ショウ¨が室井くんだって知らないんだよ?」
「けど、人前で大胆にも告白しちゃうようなつわものよ?意外と肉食系だったりして~」
ニヤニヤと嫌~な笑みを浮かべるさっちゃんを見て
・・・相沢くんと気が合いそう、とか思っちゃったよ今。
「完全に楽しんでるよね、さっちゃん」
「いや~ね、そんなことないわよ~」
ホラ、その顔。
相沢くんがニヤニヤして言う時と同じ顔だよ。
じっとりと薄目でさっちゃんを睨みながらため息を吐いた。
「は~でも、室井がねぇ」
さっちゃんは、今日何度目かになるその言葉を呟き、抜けるような青空に両手を伸ばした。
「なんかイマイチ、ピンとこないわ。アンタ夢でも見たんじゃないの?」
「え、ヤメテ。なんかそんな気すらしてくるから!」
「じゃあ、同姓同名の別人とか」
「そんな馬鹿な」
しかしながら全くの同感だよ。わかりますよ、その気持ち。昨日見たショウくんが、室井くんと同一人物だなんて未だにやっぱり信じられない。
「ねぇ、今日室井たちのバンドの練習見に行くんでしょ?」
「うん、放課後スタジオでやるんだって」
ニヤリと笑ったさっちゃんは、明らかに何かを企んでるような顔。
・・・嫌な予感。
「それ、私も連れてってよ」
「えぇ!!?」
やっぱり!!
「丁度今日、部活休みだし。見てみたいじゃない、ファンキーな室井氏の姿を」
ファンキーかどうかはわかりませんが・・・
「なによ、ダメなわけ?」
あぁ、さっちゃんの顔が怖い・・・
美人の凄む顔って凡人の倍くらいの威力があるよね。
「い、いや~・・・でも、ねぇ、いちおう室井氏の正体はトップシークレットだし。アタシの一存では・・・」
「じゃあアンタが室井に頼みなさいよ」
「えぇ~・・・?」
「・・・出来ないって?」
さっちゃんの大きな目が、鋭く光ってアタシを睨みつける。まるで蛇に睨まれている蛙な気分。
「・・・聞いてみます」
さっちゃんのこの眼光には逆らえまい。
