隣の席の室井くん①


絶妙なタイミングのくしゃみで、その場にいる皆の視線を一気に集めた室井くんは


「あ、ゴメン。続けて~」


と、へへへ、と笑った。


いやいやいやいや。貴方の話だからね?
いちおう貴方アタシの彼氏よね?
今まさにその話題だからね?


それにしても、見事なまでのTheくしゃみだったね室井くん。

へっくしょん、とか、可愛いすぎるでしょ室井くん。
そこらの女子より可愛いくしゃみだったよ。

分かっているのかいないのか・・・
その横顔からは全く読めない。



ーーーキンコーン



タイミングよく予鈴が鳴り


「うぉっと、やべ。んじゃ俺クラス戻るわ~」


と、相沢くんは自分のクラスに戻り

羽鳥くんたちも自分の席に戻っていった。
うまい具合に話題が中断され、ホッとしたようなしないような・・・


「おはよ、朝から何疲れてるのよ」


重役出勤してきたさっちゃんに、そんなことを言われる始末。


「いや・・・もう何も聞かないで」


昨日から心臓がフル活動だよ・・・。
寿命が縮んでしまうよ。


アタシはガクリと机に突っ伏した。



ーーーーーー
ーーーー
ーー



「へぇ、あの室井がねぇ」



昼休み。


例の裏庭でお弁当を食べながら、アタシはさっちゃんに昨日の出来事から今に至るまでの詳細を説明した。

室井くんの正体を隠し隠し話してたらさっちゃんに


「話すならハッキリ話なさいよ!!洗いざらい!!直ちに!!」


と、物凄い勢いで攻め立てられた。

セクシー隊長にデビルが降臨したあまりの恐ろしさにビビり散らかしたアタシは、結局室井くんの正体(?)まで話すに至る。


ーーー勿論、相沢くんと室井くんから許可も得ている。

二人とも

「日吉さんの友達なら」

と、快く承諾してくれた。


「他言は無用だよ!さっちゃん!!」

「わかってるわよ」


頷きながら、フォークで卵焼きを突くさっちゃんは
あの室井がねぇ・・・と、再び呟きながらソレを口に運んだ。


「相沢がバンドやってるのは知ってたけど、まさか室井がバンドやってるなんて意外すぎるわ」

「アタシもビックリしたよ」


ホントに。ビックリにも程がある。
ステージでマイクを握る室井くんは、普段とはまるで別人だった。


「しかし、あのキタローヘアーの下がまさかの超イケメンなんてね。漫画かよって話ね」

「・・・それにも驚いたよ」


よく考えれば、控え室での話し方や立ち振る舞いは確かに室井くんのソレだったのに、全く気づかなかったしね。

ずっと室井くんを探してたけども、室井くんがライブハウスに出入りしてるってだけでも意外だったのに、まさか出演してる側だなんて夢にも思わないでしょーな。

人の印象と思い込みってスゴイ…。


「まぁ、なんにせよ、おめでとう純」


さっちゃんが満面の笑みでそう言ってくれるから


「あ、ありがとう」


思わずアタシも俯きながら照れてしまった。
なんか、バタバタしてあんまり実感ないんだけど
室井くんと付き合うことになったんだよね、アタシ。