前髪の間から分厚い黒ブチの眼鏡が覗く。


それが室井くんの綺麗な二重の瞳を見事に目立たなくさせている。


勿体ないな、と、思う。


いや、アタシは別にこの学校バージョンの室井くんも好きなんだけど・・・というよりもむしろ、キタロー室井の方が激しく安心するんですけど。


けど、そんな裏事情を知らないクラスメートたちはこの陰気な見た目のせいなのかであまり彼には近付かないのだ。

別にイジメられてるとかじゃなく、良くも悪くも独特の雰囲気を醸し出す彼には、どこか話しかけにくいオーラが漂っている。


アタシも隣の席にならなかったら・・・もし、きっかけが無かったら、話すことはなかったかもしれない。

そんなことを考えながらぼんやりと視界の端で室井くんを見ていれば



「翔~」



教室の入り口から、相変わらず目に刺さるような金髪を携えた相沢くんが入ってきた。



「あ、おはよ~日吉チャン」

「おはよう相沢くん」



ニコニコしながら、その手には音楽雑誌を持っている。


それを室井くんに差し出すと



「お前これ、忘れてったよ」



と、室井くんの机の上にポンっと置いた。



「なになに~?朝からイチャイチャしてんの~?お二人さん」



ニヤニヤしながらも室井くんの前の席に躊躇なく座ると、机に頬杖をついてアタシと室井くんを交互に見る。



「…亮介、自分のクラスにいきなよ。それにそこ田中くんの席」



室井くんは動じることなくサラッとそう告げる。



あぁほら、こんな金髪野郎が座っちゃったから教室の隅っこで田中くんが硬直しちゃってるじゃない。

気弱な田中くんは、あぁ・・・俺の席~みたいな顔で困った顔をしている。



「相沢~」



田中くんの奥から、クラスメートの羽鳥くんが相沢くんに歩みよってきながら「おーす」と、片手を上げる。

羽鳥くんは、うちのクラスでも目立つタイプの男の子で相沢くんとたまに話しているのを見かける。



「昨日のライブ見に行ったぜ~」

「お~サンキュー」



羽鳥くんも、あそこにいたのか。会わなかったな。
と、思いながらもアタシはそのやり取りを横目に眺める。当事者でもあるはずの室井くんは、我関せずといった様子で机に教科書を出しどこ吹く風。

そんな室井くんに視線を向けることもなく羽鳥くんは興奮した様子で話を続けた。



「やっぱスゲェなぁお前のバンド!」



相沢くんの肩を叩きながらそう叫ぶ彼の鼻息は荒い。
大分興奮している様子。


すると、



「あ、俺も行った行った!!」



と、羽鳥くんのグループの人達が数人集まってきた。
やっぱり、相沢くんがバンドをしているのは結構皆知ってるんだな。なんだかものすごく人気バンドっぽかったもんね。



「てかさぁ、あのボーカルって何者なわけ?」



羽鳥くんの言葉に、思わずピクリと小さく反応してしまうアタシ。