隣の席の室井くん①




          * * *


そんなこんなな
ドタバタ日曜日から一夜明け、



ーー月曜日。



「おはよ~う」

「おはよ~今日も暑いね~」



なんて会話が飛び交う教室は相も変わらず暑い。
先日故障騒ぎをした我がクラスのエアコンは、無事修理されたのにも関わらず、暑い。

省エネだとさ。
設定温度、もうちょい下げてこうぜ。

なんてったって猛暑日和ですからね。
夏真っ盛りどころじゃないからね、もはや。



「おはよう、日吉さん」

「お、おはよう!室井くん」



腹の中で暑さに毒付くアタシとは打って変わって
いつものように長い前髪で顔を覆った室井くんがゆっくりと静かに隣の席に座る。



「暑いねぇ」



のんびりとそんなことを呟きながらおっとりと、マイペースにパタパタと手の平で仰いで見せるものの

当の本人は相変わらず汗一つかかず
そして、相変わらず白い。


・・・この人、本当に
昨日あのステージでシャウトしていた人と


同一人物デスカ?



「うん?なに?」



コテンと首を傾げこちらを見る室井くんに



「いやいや!なんでも!」



と、慌てて首を振る。


不思議そうな顔をしながらも、ニコニコとアタシを見る室井くん。

・・・やっぱりとてもじゃないけど信じられない。

このおっとりのほほ~んとしたマイペース室井くんが
まさか、あんな声高らかに声を張り上げながら危機迫った感じで、流し目で色気を振り撒きながら歌うだなんて・・・


教室の背景と同化しちゃうくらい、学校では地味なのに・・・キタローヘアーに黒ブチ眼鏡なのに・・・!!!!


そんな陰気な風貌の室井くんを横目で見ながら、昨日のことを思い出す。


何度思い返しても夢だったんじゃないかと思う。

この、隣でのほほーんとしている彼が、まさかのバンドのボーカルなんかやっていて、ステージの上で歓声を浴びちゃったりなんかして・・・

しかもそんな人がアタシの彼氏なんですってよ今。
どんな急展開なんですかコレ。


・・・¨ショウ¨といえば、昨日あのあとスタジオでアタシは何気に気になっていたことを聞いてみた。



「ところで、なんで皆¨ショウ¨って呼ぶの?」



学校では¨翔(カケル)¨って呼んでる相沢くんも
昨日はショウという呼び名で呼んでいた。


「¨翔¨(カケル)を別読みしただけだよ」


と、室井くんは綺麗な顔に惜し気もなく笑みを彩りながら教えてくれた。


どうやら、SnakeFootのボーカルが
¨室井翔¨ってことはトップシークレットらしい。



「ボーカルに誘った時にコイツが出した条件だったんだよ」



そう相沢くんが付け足す。
その理由を問えば


「目立ちたくないから」


というなんともシンプルな理由だった。


まぁ、あれだけ人気のあるバンドのボーカルとなれば自ずと有名になるだろうし、室井くんの髪の毛の下の驚くようなあのルックスじゃ、相沢くん以上に有名になりかねないし。


・・・でも、だからといって

このギャップは・・・



「日吉さん、今日スタジオ行くんだけど一緒に行く?」



室井くんが小声でコソリと言う。



「え、いいの?」



アタシが驚いて目を丸くするとニッコリ微笑んで



「うん、アイツらも日吉さん呼べって」



そう言って、前髪を揺らした。



アイツらって・・・


相沢くんを始め

インテリ眼鏡さんに
髭パーマさんですか・・・?



…ナゼにWHY?