隣の席の室井くん①


一人、状況についていけないアタシはとりあえず暴れ狂う心臓を押さえながらも未だ室井くんの腕の中。



「ショウ、日吉さん死んじゃうからそろそろ離してやれ」



髭パーマさんの苦笑い交じりの一言でようやく解放されるも、今度は向き合う形になったアタシは室井くんの顔を見れず床に視線を送る。



「あ、顔真っ赤だ」



どこまでもマイペースな室井くんは、ニコニコと眼鏡に指を這わしながらこちらを見つめる。


髪型のせいなのか、その瞳のせいなのか、
得も言われぬ色香が漂うようで、脳内がクラクラする。



「ショウの歌はなぁ、技術も音程も文句ないんだけどな、なんつーかなぁ感情に欠けるわけよ」



相沢くんが丸イスに腰をかけくるくると回りながら口を開く。



「ライブ中も、な〜ぁんかいっつも心此処にあらず~みたいな?」



語尾を上げ同意を得るような言葉尻に、インテリさんも髭パーマさんも頷く。



「それがここ最近のショウの歌ったらもう!!フェロモン出過ぎ!!悩殺モンよ~?」



チラリと正面を見遣れば、キョトンとした顔の室井くん。



「なんかあると思いきや、やたら日吉チャンの話ばっかりするしよ~これはもう恋だな!とね!いやまさかでも自覚がないとは思わなかったけどなぁ!」



笑いながらそう言い放つ彼の動きに連動するようにして、丸イスがキーキーと音を立てる。



「まぁ落ち着けよ亮介。肝心な日吉さんの気持ちまだ聞いてねぇだろ?」



髭パーマさんの一言で、4人の視線がアタシに集中した。


集中する視線に、もう一体全体何が起きているのかも未だ把握しきれていないアタシが何も発せずただただ黙っていると



「日吉さんはどう?」



と、髭パーマさんが更に質問を重ねる。



「ど、どうって・・・・・・」



何をどう答えれば・・・
室井くんはじぃっとアタシを正面から見つめる。
さながら、捨てられた子犬のようだ。


あぁ!!もう!!心臓が破裂する!!
破裂死する!!



「日吉チャンは、ショウのこと好き~?」



追い打ちをかけるかのようなニヤケ顔の相沢くんの質問に



「す、すき!!」



思わずアタシは、ブンブンと頭を縦に振って叫んでいた。

キョトンとしていた室井くんの顔が、アタシのその言葉を聞いてカアアァァァっと赤くなっていく。



「ぶはっっ!!ショウ!!顔真っ赤!!!!」

「・・うるさい、亮介。だまれ」



長さの余っている白のロンTの袖を手先からぶら下げながら、室井くんはそれで顔を隠した。



「・・・あ、アタシも・・・すきです・・・室井くんが・・・」



もう、よくわかんないけど、とにかくこの流れに便乗してしまえ!!と、半ばヤケクソになりながら、アタシも真っ赤な顔を隠しながら、呟いた。