隣の席の室井くん①



ゆっくりと開いた扉の隙間から顔を覗かせたのは



「・・・・・・」

「・・・・・・」



黒髪にインテリ眼鏡の
確か、ドラムの人。



おおぉっと!
ど、ど、どうしよう!!!!



扉の目の前にいたアタシの存在にビックリしたのか、少し目を見開いてしばらく固まっていた彼は
スッと瞳を細めるとその眼鏡越しに、アタシをまじまじと眺めた。



「・・・えっと・・・」



なんとか口を開こうとするも、そんな眼光鋭く睨まれたら開くものも開かない!!


さっきの入り口のスキンヘッドのお兄さんや
ピンクや緑の派手な人達のような迫力とは、また違った迫力にアタシはたじろいだ。


び、び、びびりますがな!!


しばらく、硬直状態が続き無言でお互い見つめ合っていたが



「・・・・・・あー」



と、何かを思い出したかのように
インテリさんは無表情のまま口を開いた。



「アンタが、亮介の言ってた女・・・?」

「は、はい!!」



いや、知らんけども!

相沢くんがアタシのことをなんて説明してるのか知らないし、もしかしたらアタシのことじゃないかもしれないけども!!


とにかくここはその唯一の希望の光に託し
アタシはなんとか首をブンブンと縦に振る。


そんな不審すぎるであろうアタシに顔色一つ、表情一つ変えることのないインテリさんはひとつ頷くと、



「亮介、」



と、室内に向かってその名を呼んだ。



「おわぁ!!ちゃんと来てくれたんだ!!?」



やっとの思いで相沢くんに面会出来たアタシは、安堵のあまり腰が抜けそうになる。


恐るべきライブハウスマジック。
この金髪が可愛く思えるゼ。



「あれ?大丈夫?えぇ~?腰が抜けちゃう程ヨカッタ?俺らのライブ」



後ろ手に扉を閉めながら廊下に出てきた相沢くんは、ニヤついた顔で壁に手をついてよろけたアタシを見下ろす。



「…なんだろう。相沢くんの顔見た瞬間、どっと疲れが襲ってきたよ…」



目の前のこの金髪に今一瞬殺意的なモノを感じましたけど。怖かったんだっつの!!入り口のスキンヘッドも
アンタのバンドのインテリさんも

フロア内の緑やら赤やらピンクやらの人達も!!!!



「まぁまぁまぁ」



宥めるように、アタシの肩に手を置き



「どうだった?ライブ」



と、改めて聞いてきた。


足を踏ん張りなんとか地面に足をつけ立ち上がったアタシは、相沢くんを見上げて



「凄かったよ!!」



殺意は一旦置いといたとして、バンドが凄かったことは間違いなく、これはぜひその感想を伝えねば!とアタシは興奮気味に身を乗り出した。



「相沢くん、ギター凄い上手いんだね!!びっくりしたよ!!感動したよ!!」

「お~さんきゅ、日吉チャンにそう言ってもらえると嬉しいねぇ」

「ベースもドラムも凄かった!!他のバンドなんか学芸会みたいに見えたもん」

「ヒャハハ!!言うねぇ」



高らかに笑いながら、相沢くんは得意気に腕を組んでニヤニヤした笑みを浮かべる。



「ボーカルなんてもう、何あの人!!超うまかった!!高音のとこなんて、脳天に雷が墜ちたカンジ!!カッコいいを通り越して、むしろもう、なんか神々しさすらあったよ!!」



そこまで熱弁するアタシを満足そうに見下ろしながら



「それ、本人に言ってやって~?」



と、ニヤついた顔の口角を更に上げ、扉を開けた。